総合商社、コロナ禍の病院経営で問われる底力 アジア等で展開、感染管理や高度治療で差別化

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縮小

そこで、2023年3月期を最終年度とする中期経営計画で掲げたのは、非資源分野の強化だ。このうちヘルスケア領域を注力事業の1つと位置づけ、IHHや医療機器メーカーPHCホールディングスなどのグループ持ち分会社のEBITDA(税引き前利益に支払い利息や減価償却費を加えた利益)を、2020年3月期実績の540億円から2023年3月期には720億円にまで拡大する方針だ。

【2021年2月9日10時37分追記】初出時のPHCに関する表記を上記のように修正いたします。

三井物産は4月1日にはヘルスケア・サービス事業本部をウェルネス事業本部へ名称変更する。IHHは累計で約3000万人にのぼる患者データを蓄積している。この膨大な患者データを活用することで、予防医療への取り組みを加速する。三井物産の安永竜夫社長も「われわれのビジネスは環境と健康に紐付いたもの以外は残れない」と強調する。

新型コロナ対策として院内の消毒を行う病院スタッフ(写真:IHH)

双日が運営するトルコのイキテリ総合病院は病床数が2682床にのぼる。日系企業が施設運営に関与する単一病院としては、国内外を含めて最大規模となる。

トルコでは2008年に国民皆保険制度が成立したことなどから患者数が急増し、病床数不足が悩みの種となっている。トルコ政府は民間資金を活用したPPP方式で医療施設を整備している。イキテリ総合病院もPPP方式で建設された1つで、双日医療インフラ事業部の石黒正樹事業開発第一課長は「(トルコ内の)古い病院とはまったく違うつくりになっており、最も効率のいいオペレーションを追求した」と話す。

病院内の感染管理で差別化

一方、豊田通商は現地の医療事情に寄り添った病院経営を貫いている。インドのサクラ病院(病床数294)は脳神経外科などに強いことが特長だ。同病院のあるバンガロールは「インドのシリコンバレー」と呼ばれ、IT企業を中心とする外資系企業が数多く立地し、患者の所得も高い。

インドは国民皆保険制度が整備されていないうえ、民間保険の加入率も低い。公立病院なら医療費はかからないが、民営のサクラ病院は「病院内の感染管理などの質の高さ」(豊田通商の中島武司メディカル事業戦略室長)が評価されているという。

現地では病院内の感染管理が行き届いていないため、院内感染を引き起こすことが少なくない。サクラ病院は感染管理の徹底を図ることで他病院との差別化を図った。

また、自由診療のインドでは手術が終わると患者はすぐに退院することが多い。サクラ病院は手術後のケアに注力し、「手術を受けた後も在宅医療やリハビリを受けられる」(中島室長)体制にした。経営を考えればベッド数が多いほうが収入を得やすいが、ベッド数をあえて減らし、手術後対応の充実ぶりをアピールすることでブランド価値を高めた。

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