スーチー氏拘束、跋扈するアジアの「権威主義」 米バイデン政権の外交政策が試されている

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ミャンマーの軍部はクーデターの理由として、スーチー氏が率いる与党・国民民主連盟(NLD)の圧勝に終わった2020年11月の選挙に不正があったとしている。国際選挙監視団が「おおむね問題はなく、正当」と認め、選挙管理委員会も軍の申し立てを却下しているにもかかわらず、である。

証拠を示さず選挙の不正を言い募る点でトランプ支持者と同類なのだが、武力を行使できるところに違いがある。

ミャンマーの軍部は2008年、自らの特権維持を定めた憲法を制定した。国会の4分の1の議席を軍の指名とする一方、改正には4分の3以上の賛成を必要とするなど、「不磨の大典」と呼ばれた。2011年の民政移管を受け、アメリカが経済制裁を解除したことで多くの外資がミャンマーに参入し、軍関連の企業も大きな恩恵を被ってきた。

こうした事情を考えると、諸外国の制裁復活が予測されるクーデターはありえないと思われていた。

驚きのベトナム書記長人事

1990年の総選挙でNLDが圧勝したときも、軍は政権移譲を拒み、スーチー氏を自宅軟禁して民主化勢力を弾圧した。今回も、NLDの圧勝と、それを認めない軍の武力弾圧という30年前の絵柄が焼き直された形だ。

一方、5年に1度のベトナム共産党大会の焦点は人事だった。チョン氏続投がささやかれていたものの、最高権力ポストの書記長の任期は1976年の南北統一以来、2期10年までと決まっており、これまで任期延長の例外はなかった。

76歳と高齢のチョン氏が健康に不安を抱えていることを考え合わせると、3期目突入はやはり驚きである。兼務していたナンバー2ポストの国家主席こそ譲るものの、そもそも序列1位、2位の座を独占していたのも統一以来チョン氏だけだった。

首相、国会議長を加えた序列4位までのポストはこれまで北部、中部、南部の出身者でそれぞれ分け合っていたが、次期国会で正式決定される人事で南部出身者はトップ4から排除される模様だ。南部はホーチミン市を中心とする経済の中心であり、チョン氏の政敵だったグエン・タン・ズン元首相の地盤でもある。歴史をさかのぼれば、内戦としてのベトナム戦争で北側に制圧された地域でもある。

共産党一党独裁体制でありながら、ポストを地域ごとに配分し、任期に上限を設けることでバランスを保ってきたベトナムも、これで権力の集中が一挙に進む。南シナ海の領有権問題では中国と対立し、外からは見えにくいものの、トップの任期撤廃など統治の形については中国をお手本にしている。中国同様、腐敗撲滅を旗印にして強引に政敵を排除していく可能性も指摘されている。

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