日豪米は、質の高いインフラでも協力してきた。3国の政策金融機関は2018年11月に締結した「インド太平洋におけるインフラ投資に関する三機関間パートナーシップ」に基づき共同ミッションを派遣。パラオの海底ケーブル向けの共同融資も実現した。地経学の泰斗であるBlackwill氏は貿易政策、経済制裁等とならび金融・援助も地経学的手段と位置づける。
今後「攻めの地経学」を考える際には、副作用やWTOルール抵触を招きやすい貿易制限や制裁といった「ネガティブ」な手段だけではなく、金融・援助といった「ポジティブ」な手段の柔軟な活用も重要だ。その際に「質の高さ」の維持は当然と言えよう。
日本も中国に声を上げることが重要
オーストラリアは、10倍以上の経済規模を持つ中国に、民主主義、人権、法の支配といった点で明確に発信している。豪米との価値観を共有するわが国も、声を上げることが重要だ。
茂木敏充外務大臣は「人権は普遍的な価値であり、文化に違いがあっても人権擁護はすべての国の基本的責務だ」と述べ、香港国家安全維持法の施行への重大な懸念を表明、民主派関係者53人の逮捕を「許容できない」と明言した(1月21日朝日新聞)。適切なメッセージであろう。
また、貿易関係を武器化した中国によるオーストラリアへの「経済的恫喝」は、「自由貿易」や「ルールに基づく国際秩序」を毀損するものだ。WTO等の国際ルールの強化、中国への過度な貿易依存の是正に加えて、同志国が連携して中国の「経済的恫喝」を非難することも重要だ。貿易の武器化では、中国のような大国はオーストラリアや日本のようなミドルパワーよりも強い立場に立つ。
加えて、一般に、被害を受ける業界の声を無視できない民主主義国よりも、中国のような権威主義的体制のほうが「我慢比べ」に強い。こうした二重の非対称性を克服するためには、日豪米を中核に、同志国が連帯し共同で明確なメッセージを発する体制が不可欠だ。
さらに、日豪米にインドも加えたQUADや「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)構想も地域の自由と平和のための重要な枠組みだが、いずれにおいても日豪は中核となる。また、日豪は、アメリカの「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(CPTPP)参加を時間がかかっても粘り強く働きかけることが必要だ。
基本的価値と戦略的利益を共有する日本とオートラリアが、アメリカとも連携しつつ、安全保障、エネルギー、経済などさまざまな面で協力を強化することは、これらの国の利益を増進することに加え、インド太平洋地域の安定にも資する。オーストラリアとの関係強化は日本にとって最重要の政策課題だ。
(大矢伸/アジア・パシフィック・イニシアティブ上席研究員)
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