日豪米の協力強化が一段と求められている事情 豪州ダーウィンから見た安全保障とエネルギー

✎ 1〜 ✎ 39 ✎ 40 ✎ 41 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

日豪米は、質の高いインフラでも協力してきた。3国の政策金融機関は2018年11月に締結した「インド太平洋におけるインフラ投資に関する三機関間パートナーシップ」に基づき共同ミッションを派遣。パラオの海底ケーブル向けの共同融資も実現した。地経学の泰斗であるBlackwill氏は貿易政策、経済制裁等とならび金融・援助も地経学的手段と位置づける。

今後「攻めの地経学」を考える際には、副作用やWTOルール抵触を招きやすい貿易制限や制裁といった「ネガティブ」な手段だけではなく、金融・援助といった「ポジティブ」な手段の柔軟な活用も重要だ。その際に「質の高さ」の維持は当然と言えよう。

日本も中国に声を上げることが重要

オーストラリアは、10倍以上の経済規模を持つ中国に、民主主義、人権、法の支配といった点で明確に発信している。豪米との価値観を共有するわが国も、声を上げることが重要だ。

茂木敏充外務大臣は「人権は普遍的な価値であり、文化に違いがあっても人権擁護はすべての国の基本的責務だ」と述べ、香港国家安全維持法の施行への重大な懸念を表明、民主派関係者53人の逮捕を「許容できない」と明言した(1月21日朝日新聞)。適切なメッセージであろう。

また、貿易関係を武器化した中国によるオーストラリアへの「経済的恫喝」は、「自由貿易」や「ルールに基づく国際秩序」を毀損するものだ。WTO等の国際ルールの強化、中国への過度な貿易依存の是正に加えて、同志国が連携して中国の「経済的恫喝」を非難することも重要だ。貿易の武器化では、中国のような大国はオーストラリアや日本のようなミドルパワーよりも強い立場に立つ。

加えて、一般に、被害を受ける業界の声を無視できない民主主義国よりも、中国のような権威主義的体制のほうが「我慢比べ」に強い。こうした二重の非対称性を克服するためには、日豪米を中核に、同志国が連帯し共同で明確なメッセージを発する体制が不可欠だ。

さらに、日豪米にインドも加えたQUADや「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)構想も地域の自由と平和のための重要な枠組みだが、いずれにおいても日豪は中核となる。また、日豪は、アメリカの「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(CPTPP)参加を時間がかかっても粘り強く働きかけることが必要だ。

基本的価値と戦略的利益を共有する日本とオートラリアが、アメリカとも連携しつつ、安全保障、エネルギー、経済などさまざまな面で協力を強化することは、これらの国の利益を増進することに加え、インド太平洋地域の安定にも資する。オーストラリアとの関係強化は日本にとって最重要の政策課題だ。

(大矢伸/アジア・パシフィック・イニシアティブ上席研究員)

地経学ブリーフィング

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

2023年9月18日をもって、東洋経済オンラインにおける地経学ブリーフィングの連載は終了しました。これ以降の連載につきましては、10月3日以降、地経学研究所Webサイトに掲載されますので、そちらをご参照ください。
この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事