コロナ対策については、バイデン大統領はコロナ戦略の一環としてパンデミック対応の国際協力体制の確立を掲げ、1月21日にはパンデミックに備えたサプライチェーン強化の大統領令に署名した。また、1月29日のミニ閣僚会合でも、アメリカはWTOによるコロナ禍からの復興促進を優先課題として挙げた。
オタワ・グループは、2020年春に広がったマスクや医薬品、医療機器などの輸出制限を念頭に、こうした不可欠物資の輸出制限の規律強化と貿易円滑化、サプライチェーン強化などを提言しており、アメリカの関心とも一致する。また、2020年末に2020年末にWTOが円滑なワクチン供給とWTOルールに関する報告書を取りまとめてた。ここへ来てEUが導入したワクチンの輸出許可制は懸念材料だが、これもアメリカを中心に協力が期待される課題だ。
アメリカの中産階級や労働者にとって公正な貿易を求めるには、やはり中国の産業補助金問題が重要になる。すでにこの問題は、トランプ政権時代から日米EUの三極貿易大臣会合で議論を重ね、2020年1月に鉄鋼過剰生産能力問題を念頭に置いた改革案に合意した。しかしWTOでは中国の強い抵抗が予想され、議論の本格化以前に、まずは三極からカナダ、オーストラリアといった同盟国に支持を拡大させることが先決だろう。
TPP復帰への再交渉はかなり厳しい
環太平洋経済連携協定(TPP)について、バイデン大統領は以前から再交渉を行うことを復帰の条件としていた。この点は政権発足後にサキ報道官も明言している。しかし再交渉のハードルは高い。2015年の交渉妥結当時、共和党は投資仲裁からのタバコ産業の除外や生物製剤の特許保護期間などに不満を持っていた。
また、民主党左派は環境や労働に関する規律が不十分であることを指摘していた。さらに、農産物の市場開放が不十分とする声も聞かれた。これらの要求を他の11カ国に受け入れさせる交渉は困難を極め、バイデン政権によるTPPへの早期復帰の実現は難しい。
アメリカにはそもそもTPP復帰のインセンティブに乏しい。アメリカにとってTPPの最大のメリットは、NAFTA(北米自由貿易協定)のアップデートと、日本への市場アクセスだったが、前者はUSMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)で、後者は日米貿易協定でそれぞれすでに実現している。USMCAでは、TPP妥結時に議会が不満だったメキシコの労働者保護規律の強化を高いレベルで達成し、デジタル貿易ルールもTPPプラスの規律に合意した。
また、自動車の原産地規則についても、TPPより域内調達比率を上げ、さらに賃金条項を挿入することで、雇用の流出を防ぐことができた。日米協定では、自動車市場の開放を棚上げしながら、農産物を中心にTPP並みの対日市場アクセスを確保できた。TPPに戻るとなるとこれらの利点が失われ、アメリカの労働者、特に中西部の自動車産業関連労働者の雇用に影響を与えることは必至だ。
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