バイデン政権の通商政策に過度な期待は禁物 自由貿易、米中対立、WTO……アメリカ・ファーストは続く

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また、上級委員会の審理再開までの上訴手続をどう手当てするかも喫緊の課題だ。上級委員会の機能停止の結果、2019年まで年平均約24件行われたWTO提訴は、2020年では5件にとどまり、WTOの紛争解決機能自体が危機にある。

EUはすでに20カ国あまりの有志加盟国と上訴手続きに代わる暫定的な仲裁手続合意(MPIA)を締結している。さらにMPIAの利用に同意せず、空の上級委員会に上訴して事件を棚上げする(“appeal into the void”)紛争相手国に対抗措置を発動する域内法を整備しつつある。

WTOがアメリカが乗り出せる改革案を出せるか

今後EUはアメリカに上級委員会改革とともに暫定的な対応のための議論をも働きかけるだろう。アメリカはこの1年間ためらうことなく棚上げ上訴を行なってきたが、折しもバイデン大統領の就任当日に、韓国から訴えのあったダンピング防止税に関するパネルでアメリカは敗訴した。本件での対応は、今後の米国の方針を占う点で注目される。

上記以外にもWTO改革やデジタル貿易、漁業補助金などの新ルール交渉、そして延期中の第12回閣僚会議開催など、課題は山積している。その解決にアメリカのリーダーシップが不可欠だが、アメリカの関与を引き出すには、バイデン政権の関心に響くアジェンダを設定する必要がある。

例えば1月27日の大統領令でも外交・安全保障の最優先課題とされた温暖化について、EUは2019年末から排出規制コストの国境税調整制度を検討する一方、この制度の実施について2020年12月の「環大西洋アジェンダに関する声明」でアメリカに協力を呼びかけている。バイデン政権も公約の中で国境税の導入に言及しており、最もアメリカとEUの協力が実現しやすいアジェンダだろう。

また、EUはWTOでも日本やオーストラリア、カナダなどWTO改革派有志国(オタワ・グループ)と連携して、温暖化と貿易に関する議論の本格化や、トランプ政権下で停止中の環境物品の関税撤廃交渉の再開を提唱している。これもアメリカにとっては温暖化対策の一環として乗りやすい提案だ。

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