日本人は過去150年の経験を生かし切れてない 苅谷剛彦さんが語る「知に対する謙虚さ」の意味

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苅谷:近代化、工業化の過程で生じた水俣病などの例も、地球環境や汚染の問題を考えるうえで、必ず参考にすべきことだと思います。福島第一原発の事故も然りです。日本の歴史を振り返ると、いろいろな時代に「参照点」となる場所がたくさん詰まっています。そして、そういったことを理解できる、さらに理解できるだけでなく、人類のために役に立てられる人は日本の教育でしか作ることができません。

須賀千鶴(すが・ちづる)/世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターの初代センター長を務める須賀千鶴。現在は「グローバル・テクノロジー・ガバナンス・サミット」の準備に明け暮れる。同サミットは世界経済フォーラムが「テクノロジーの恩恵を最大化し、その力を統御する」ことをテーマに掲げた国際会議。初会合は、世界の政府、産業、市民社会、学界からステークホルダーを招聘し、2021年4月6~7日、日本をホスト国としてバーチャルで開催(撮影:間部百合) 【2021年3月15日19時22分追記】GTGSの開催方法が当初予定から一部変更になりましたので修正しました

須賀:まさしく日本の教育にしかできないことですね。

日本語で書かれたものは研究の宝庫

苅谷:私は海外に渡ってから、日本語で書かれたものが研究の宝庫であるということに気づきました。日本語が読めるアドバンテージをどのようにグローバルに還元していくかということは、つまり、先ほど述べた日本の近代化の経験をどのようにしてグローバルに伝えていくかということです。

日本の大学の関係者の方とお話しするときも、もっと日本語の力を信頼して、日本語で書かれたものの価値を認識し、そのうえで、なぜ、それを外国語で表現しなくてはならないのかということを理解することが重要だと話しています。順番を間違えて、なんでも授業を英語でやればいいというようになってしまえば、授業を英語にしたところで、それほど高いレベルにまでは到達しません。

これまで相当高いレベルにあるゴールの話をしていて、日本の教育全体に関する話にはなっていませんが、少なくとも日本の教育が果たすべき具体的な目標であり、実際にグローバルに貢献可能なこととしては、「内部の参照点」をきちんと見つけ、そこから得られた経験を多声的に理解できる人間を作り出していくことだと思います。例えば先の例のように、100年前のパンデミックについて報告書を書いた人たちのことを追体験的に考えることによって、今のわれわれに何ができるかということについて考えられることがたくさんあると思います。

そのためには、さまざまな知識が必要で、日本語が読めなくてはいけませんし、歴史的な背景に対する理解や、何らかの科学的な知識、国際関係に関する知識も必要です。いわゆる高校までに習う知識というのはそういう形で役立てようと思えば、そこに到達できるための知識はとてもよく詰まっていますから、やはり、学校で教える知識がなぜ重要なのかということも含めたゴールセッティングが欠かせないのだと思います。

須賀:苅谷さんの話を伺って、私たちも何か重要なポイントを見失っていたのではないかと気づかされました。ありがとうございました。

(制作協力:黒鳥社)

須賀 千鶴 世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長

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すが ちづる / Chizuru Suga

2003年に経済産業省に入省。途上国支援、気候変動、クールジャパン戦略、霞が関の働き方改革、コーポレートガバナンス、FinTech、ベンチャー政策などを担当。2016年より「経産省次官・若手プロジェクト」に参画し、2017年より商務・サービスグループ政策企画委員として、提言にあわせて新設された部局にて教育改革等に携わる。2018年7月より、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターの初代センター長に就任。

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