いやいや、8年間のオバマ時代は、「お前の口ばっかりにはもう飽き飽きだぜ!」というネガティブな反応も招いていた。金融危機の責任者たちは、巧みに難を逃れて金持ちはますます肥え太る。逆に普通の人たちの暮らしはちっとも良くならない。東海岸と西海岸の大都市は栄えているけれども、中西部や南部の田舎ではサッパリいいことがなかった。
それにオバマの演説は高邁過ぎて、「えーっと、これはいったい何のメタファー(隠喩)なんだろう?」みたいなことが少なくなかった。当然、アメリカ国民でもついていけない人はいっぱいいたわけで、そういう人たちが反エスタブリッシュメント傾向を強めて、ついにはドナルド・トランプ支持者になった。少なくともトランプさんが言うことは、「難しくて意味がわからない」なんてことだけはなかったもの。
「良い子」→「悪い子」→「普通の子」大統領へ
次なる4年間のトランプ時代は、前任者の美辞麗句とは正反対の「ぶっちゃけ」モードとなった。「ヘドロを掻き出す」と言ってワシントンに乗り込んできて、それまでのタブーを次々と破った。専門家やメディアは怒り心頭となったけれども、もちろんそんなことでひるむような大統領ではなく、むしろトランプ支持者たちは旧来の秩序が壊れていくことに快哉を叫んだものだ。
言ってみれば8年間の「良い子」大統領の時代が、次の4年間の「悪い子」大統領の出番を作ってしまった。そして「悪い子」大統領がやりたい放題を尽くして、いよいよどうにもならない状態になって、後始末に駆り出されているのが「普通の子」であるバイデン大統領、ということになるのではないだろうか。
ところがこのバイデン氏、いやもう、「普通の子」だけあって、全然目立たない。晴れの舞台の大統領就任式でも、主役の座を他人に明け渡してしまっている。もっともこれが「普通」なのであって、今まで大統領がいつもいつも注目を一身に集め続けてきたことのほうが、よっぽど異常事態だったのかもしれない。
あいにくわれわれは「トランプ劇場」に慣れてしまっていて、「悪い子」前大統領の不在になにか物足りないものを感じてしまっている。とりあえず朝一番でツイッターをチェックして、「昨日のトランプさんは何を言ったんだ!」などと確認しなくても済むのは、精神衛生上、たいへんありがたいことなのだが。
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