何の話し合いもなく、相談室を通じて “交際終了”が告げられ、義昭の前から姿を消してしまった弓枝。仮交際や真剣交際期間中ならば、相談室を通しての“交際終了”でいいのだが、婚約が成立していたのだ。不誠実ではないか。義昭があまりにも気の毒だった。
こんなとき、仲人の私にできることは、次の出会いの機会を作ってあげることだ。負の遺産を抱えたまま、そこでいつまでも感傷に浸っていたら、人生は好転しない。負のスパイラルに巻き込まれていくだけだ。つらいときこそ、それを断ち切り、幸せな未来に向けて歩き出したほうがいいのだ。
新しいお見合いも、なかなかうまくいかず
私は、新しいお見合いをするよう、義昭に勧めた。そして、すぐにお見合いを5つほど組んだ。
その中でいくつかは交際に入ったが、1、2度会うと、“交際終了”の連絡が届いた。またコロナ禍で、都内の人が密集する場所でのデートもできずにいた。
そんなか、交際に入った女性の1人と、義昭が車を出して郊外に行くドライブデートをしたことがあった。
ところが、その翌日、その女性の相談室から“交際終了”の連絡が来た。その理由が、こうだった。
「1日一緒に過ごしてみて、価値観の相違を感じたそうです。そして、出かけた先で車を駐車場に入れようとしたときに、3時間2000円という料金の看板を見て、彼が『うわっ、こんな田舎なのに、高っ』とおっしゃったようです。その発言に、『彼の金銭感覚が見えた』と申しておりました」
世の女性たちは、高額所得者の男性は、普段からお金をジャカスカ使い、そうした男性を射止めれば、セレブな生活ができると考えているのだろうか。私が知っている義昭は、決してお金にはケチではなかったし、デート代を出し惜しみしたり、割り勘にしたりするようなタイプでない。ただ、ごく普通の地方の家庭に育ち、自分で会社を立ち上げてここまできているので、考え方はとても堅実だった。
一方的な婚約破棄をされて傷ついている義昭に、このお断りの理由をフィードバックするべきかどうか悩んだ。
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