第1、第2志望校は不合格、第3志望に受かったが、高校受験をすることを選び、地元公立中に進んだという慎吾さん。「中学での成績は比較的よく、あれは中学受験を経験していたからではないかと。だから、息子もチャレンジしてみるのもいいかもしれないと思ったんです」。
塾探しを担当したのは母親の温子さん(仮名)だった。村田家は夫婦共にフルタイム勤務の共働き、塾選びにはそこも考慮したようだ。
はじめに門を叩いたのは早稲田アカデミーだったが、お弁当がいることがひっかかり断念。次に、中堅塾として校舎を増やす臨海セミナーを訪れたが、近くの校舎の場合、今からでは「高校受験の準備クラスになる」と言われてしまった。
候補として残ったのが都立中高一貫校受検に強いと評判のある有名塾だった。5年生の4月に入塾、私立入試の場合、小3の2月入塾というのを標準とする塾が多いのだが、都立一貫校を目指すコースでは、5年生クラス(4年生2月開始)から始まるところも多くある。やや遅れての入塾だったが、同じ小学校の子もいたためか、塾にはすぐになじめたようだ。
都立中高一貫校の入試は私立の受験とは異なり、表記も「受検」と書く。問題形式も随分と違う。試験は国語、算数、理科、社会といった教科ごとに分かれておらず、適性検査と呼ばれるテストが行われる。
長文を読んで問題に答える検査と、グラフや表などから情報を読み取り、問いに答えていくような検査の2種類がある。いずれも、いくつもの教科の知識と思考力を総動員して解くような問題が組まれている。また、ほとんどの学校で作文が課されるのも特徴だ。どの検査の勉強も、大人になっても生きる力につながると、父親の慎吾さんは感じたという。
「作文は大学で論文を書くのに役立つでしょうし、これからの世の中、総合的な思考力も生きるうえで必要になるはずです」
だが、入塾当初の成績は、以前から塾に在籍する生徒には及ばず、まったく振るわなかった。同じ学校と塾に通う成績トップの同級生に、
「お前には、いつか追いつくからな!」
と、威勢よく話しかけていた翔馬くんだが、鼻で笑われる始末。しかし、コツコツと勉強を続けていくうちに結果が見え始める。5年生の冬になると、都立中入試を目指す子どもが受ける模試で偏差値56とまずまずの成績を残せるようになっていたのだ。
気がつけば、通っている塾の校舎での順位も10番以内に入っていた。志望校に据えていた都立中高一貫校の偏差値は58(四谷大塚)。「このまま頑張れば、受かるのでは?」。親子ともに期待が膨らんだ。
合格率わずか10%という厳しい現実
5年生の冬、1つ上の先輩たちの受験シーズンがやってきた。「来年は、自分があの場所に立っている」。偏差値の上がった翔馬くんは、明るい希望に包まれたまま、上級生の様子を見守っていた。そんな中、親の耳に入ってきたのは厳しい現実だった。
「塾の先生から『今年は合格者が少なかったです』と聞きました」(慎吾さん)。同じ校舎からは30人ほどが受検したが、合格したのはたったの3人だと聞かされた。受検すると言っていたママ友の子も、蓋を開けてみれば地元の公立中に入学していた。慎吾さんは、自分もかつて経験したこととはいえ、過酷な現実が突然、息子の目の前に現れたような気がした。
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