2年間、必死に勉強した結果を不合格で終わらせてしまってよいのだろうか……。上級生の結果を受け、村田夫妻の間では、志望校についての話が頻繁に出るようになった。「落ちたら地元の中学に入り、高校受験を目指せばいいじゃないか」という、都立中受検を決めた当初の気持ちが揺らぎはじめた。
「いろんな学校を受けられる私立と違って、都立は1回しかチャンスがありません。本当に都立1校に絞っていいのかと、悩みはじめたんです」(慎吾さん)
月々の月謝はもちろん、合宿や特別講習など、かけるお金もばかにならない。これだけやって、併願ができないのは悔しくないか……そんな思いもよぎるようになっていた。
「もし、インフルエンザにでもなったら、即アウトです。学区的にもそんなに中学受験をする子どもが多い地域ではないため、落ちたときには“あの子は落ちて地元中に入った”と周りにわかってしまう。そこも本人にどう影響するか、気がかりでした」
悩んでいたのはチャレンジできる回数の問題だけではない。翔馬くんは提出物などの忘れ物が多く、それほど優等生タイプでもない。当然、学校の通知表も優等生とまではいかない。共働き家庭であっても、忘れ物がないように、目を配ってフォローできる親もいるが、夫婦共にフルタイム勤務でそれをこなすのはなかなか難しい。だが、都立中入試には内申点が不可欠だ。都立一本勝負の中学受験が翔馬くん本人にとって、本当によい道なのか、夫婦の悩みは尽きなかった。
最近は、こうした都立中志望者の滑り止め校としての役割を担おうとする私立もある。これらの多くの学校では、適性検査型入試を導入している。偏差値だけを見れば、中堅から下という学校が多いため、“肩慣らしのため”に受けるという人が多いのが実情だ。とはいえ、都立に落ちて、こちらに入学する子もいる。ある学校の関係者は「適性検査型入試で入った生徒は成績がいい子が多い」と漏らしていた。
6年生で都立から私立入試へ転換
しばらくしても、両親のモヤモヤした気分は止まらなかった。母親の温子さんがたまらず塾に話してみると、塾は引きとめてきたという。都立を第1志望にしたまま、近隣で併願できそうな私立中を受けることを勧めてきたのだ。
「ここなら、今の成績で間違いなく受かります」
塾の担当者はそう語りかけたが、夫妻は「そんな保証はどこにもない」と感じた。他の意見も聞いてみようと、ある大手塾を訪れた。
突きつけられたのは厳しい現実だった。1年とはいえ、中学受験の準備はしてきた。近くの大学付属校はどうだろうと、希望を伝えると、応対した講師から「今からでは厳しいです」という言葉が返ってきたのだ。
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