従来の調査時から述べているが、この内部通報の件数はどの程度が適切なのか一般に使われている基準はない。ただ、『CSR企業総覧』編集部では2011年度からこのデータを収集してきた経験から、従業員数と対比するのが一つの見方であろうと予想している。
たとえば、3位のパナソニックの2019年度の単独従業員数6万455人を件数760件で割ると1件当たり79.5人となる。参考までに上位の製造業では7位のエーザイ(544件)は、単独従業員数2953人なので1件当たり5.4人。同様にすると、10位日立製作所は68.5人、11位ソニーは6.1人、12位ホンダは59.2人、13位日本製鉄は63.8人、14位花王19.3人となる。
われわれは「1年間で100人に1人が通報する」環境が、通報制度が機能している目安の1つとみているが、通報1件当たりの従業員数は100人未満が101社中78社、200人未満は同じく94社だった。
1件当たり100人未満、1件当たり200人未満の会社数はともに、2018年実施の調査のランキング発表時(一昨年)のもの(100人未満が100社中74社、200人未満は同じく87社)よりも増えている。これは通報制度がより機能するようになっている表れではないかと考える。
ただし、単独従業員数を基準にすることは課題も多い。通報可能な対象者はグループ会社を含む場合もあるし、正社員以外のパートやアルバイトが含まれる場合もあるからだ。通報可能な人数が明確でないため、単独の従業員数を使って算出した値は、あくまで参考データであることには気をつけていただきたい。
情報システムを通じた内部通報の整備も
エーザイのケースでは、コンプライアンス連絡・相談窓口では幅広い問い合わせを受け付けているので、「ほとんどが通報ではなく規則に関する問い合わせである」としている。少しでも多くの情報を収集しようとすると、実際に内部通報される情報はコンプライアンス問題に関するもの以外が多くなるだろう。
内部通報される情報は一般的に、窓口担当者に対する個人的な仕事の不満などの告白や投書といったものも少なくなく、社内窓口の担当者がつらい思いをするケースも依然として残っているかもしれない。
これまでの記事では、IHIのような社外専門機関に窓口を一本化するのが1つの方策ではないかと述べてきたが、今後の従業員の働き方の変化を考えると、投資負担はかかるだろうが情報システムを通じた「会社関係者がいつでも・どこからでも通報できる仕組み」などの整備も必要になるのではないだろうか。
『CSR企業総覧』編集部では、今後も内部通報件数のデータを収集し、各社の動向を伝えていきたいと考えている。コロナ禍でも経営の健全性への寄与が考えられる内部通報制度の進展に期待する。
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