「呪怨」をつくった清水崇の粘り強く快活な人生

群馬生まれの少年が描いた妄想が世界に届いた

大学では、大橋也寸(やす)さんという演出家の下で芝居の基礎を学んだ。

「口悪く、手厳しい人でしたが、通常の大学課程では得られないような芝居や身体表現の貴重な基礎を学べて、楽しく新鮮な経験でした」

授業とは別に、映画好きの仲間で集まり、中学時代に祖父から買ってもらった、VHSのカメラで映画作りを始めた。ジャッキー・チェン作品にインスパイアされたアクション・コメディー作品を作り、学祭で公表した。

「友人とW監督していたんですが、皆をあっと言わせるアクションシーンを作ろうということになりました。演劇専攻だから役者志望の人はいっぱいいたんですけど、さすがに3階から飛び降りてって命令はできませんでした。ケガされたら困りますしね」

それでも映画に名場面が欲しいと思った清水さんは、陸上部からマットを借りてきて、もう1人の友人監督と2人で3階から飛び降りた。

気に入ったシーンが撮れるまで、何度も何度も飛び降りた。

「作った映画は文化祭で流しましたが、そのシーンのおかげで大好評でした」

在学中は「映画の授業も作ってほしい」と学校側に働きかけ、脚本家の石堂淑朗さんによる授業が実現した。

「石堂さんは破天荒な方で、酒を交わしながら、映画や人生に関するいろいろなことを学ばせてもらいました。大学を辞めた後も石堂さんの授業だけ忍び込んで受けましたし、晩年も毎年、仲間とご自宅までお邪魔していました」

石堂淑朗さんは、浦山桐郎、大島渚、実相寺昭雄、今村昌平など、名だたる監督の脚本を手がけた脚本家だ。代表作に『日本の夜と霧』『南極物語』『ジャズ大名』『黒い雨』などがある。

大学を中退して大阪から京都へ

そんな充実した楽しげな大学生活を過ごしていたが、3年生のときに中退することに決めた。

「学校に不満があったというわけではなく、完全にプライベートな人間関係で辞めました。いろいろゴタゴタがあったんですが、親にはいまだに辞めた理由は伝えてません。さすがに申し訳ないことしたな、と思ってます」

引っ越し資金が少ないのと、「一度は京都に住んでみたい」という思いがあったので、大阪から隣の京都へ移り住んだ。

たまたま小学校時代の同級生が京都に住んでいたため、そこに仮住まいさせてもらいながら不動産屋に行った。開口一番、

「いちばん安い部屋を貸してください」

と言うと、まずまず交通の便のいいアパート物件を紹介してくれた。

大家さんは喫茶店を経営していて、そこで週2回手伝ったら、家賃は5000円でいいということだった。しかも喫茶店のバイト代も別途きちんと支払われるという。

願ったりかなったりですぐに契約したが、安いには安いなりの理由があった。

「そこは治安があまりよくない地域で、隣の部屋は、暴力団の鉄砲玉みたいな人たちが寝泊まりさせられている部屋でした。そこだけ監視カメラがついていました」

ときおり外からは飛び交う怒号や、バタバタと追いかけ回す音が聞こえてきた。

怒声の後に「ダーン」と銃声が聞こえ、同時に清水さんの部屋の窓ガラスにピシッとヒビが入ることもあった。

「大家さんに相談したら『そうそう隣とは関わらないほうがえぇよ』って、のんきにアドバイスされました。そういうことは先に言ってくれよ!!って思いましたね(笑)」

とにかく映画に関係する仕事がしたいと思い、飛び込みで撮影所の門をたたいた。だが、人手は足りていると断られてしまった。

しかし映画館の仕事を紹介してもらえた。ラブホテルの隣にある小さな映画館で、パンフレットを売ったり、自動販売機を詰めたり、チケットを切ったりする日々が続いた。

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