日本が「AI人材確保」だけでは世界に勝てない訳 デジタル化を進めるうえで何が大事になるのか

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先ほど挙げた協働ロボットを例に、もう少し掘り下げてみましょう。ヒトと一緒に作業するロボット、という意味で「協働型」と呼ばれています。全自動でない、というところがミソで、あえて最後はヒトに作業を任せる部分を作ります。

そのよさは、センサーやカメラで人の接近や接触を感知する機能をロボットにもたせることで、ヒトとロボットが同じ作業スペースで仕事ができるということです。協働を考えないロボットの場合、ロボットの作業スペースは安全のため柵で仕切るのが一般的ですが、協働ロボットは人のすぐ近くで作業できます。

だから、梱包や組み立てなど人がしている仕事をロボットと分担したり、柵の設置が難しい狭い場所に取り付けたりすることが可能となり、生産ラインを柔軟に構築できます。

ヒトとロボットの接点工夫は大きな武器に

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ファナックや安川電機、三菱電機など日本のロボットメーカーが協働ロボットに力を入れています。ファナックの山口賢治社長によれば、「我々の工場のある事例では、従来型ロボット15台の作業を、人間1人と協働ロボット5台に置き換えるのが適切だと分かった。設備投資は約5割減り、場所も約7割減らせる」(『日経ビジネス』2020年8月17日号)とのことです。

ヒトとロボットの接点を工夫することは、生産性向上のための大きな武器になります。まさに、ラストワンフィートを考えるうえでの好例です。IoTでデータを採って、データをクラウドに集約し、貯まったビッグデータの処理で生産性向上のアイデア形成を狙うというこれまでのルートとは違う戦略で、ヒトをあえて介在させることがメリットの源泉になっています。

最後にはヒトの一手間を残すことによって全体効率の向上をめざすという発想は、日本のモノづくり産業に根強く残っています。それをあえて日本の強みにする、というのがラストワンフィート戦略なのです。

日本企業がデジタルプラットフォームをとりにいく、ということは、30年前なら可能だったかもしれませんが、プラットフォームは「Winner takes all」の世界であり、今の日本企業が目指すべき方向性だとは思えません。「アナログベース」と「ラストワンフィート」に視点を変えることによって、新たな戦場が見えてきます。1つひとつは小さなデジタル化だったとしても、地道に効率の向上を積み重ねていくと、大きなインパクトをもたらします。

(編集協力:新志有裕)

伊丹 敬之 国際大学学長

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いたみ ひろゆき / Hiroyuki Itami

国際大学学長、一橋大学名誉教授。1969年一橋大学大学院商学研究科修士課程修了、72年カーネギーメロン大学経営大学院博士課程修了(Ph.D.)、その後一橋大学商学部で教鞭をとり、85年教授。東京理科大学大学院イノベーション研究科教授を経て、2017年9月より現職。この間スタンフォード大学客員准教授等を務める。

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