日本にある深刻な「デジタルデバイド」の実態

菅政権「デジタル政策」根本的に欠けている視点

営業強化や商品開発のICT化に向けた外部コンサルティング会社の利用を要する大企業が40%にも達しているというのは、驚異的な割合だ。これは、その企業の従業員にICTスキルが不足していることと、真の意味での「デジタルマインド」がないことによるものだ。また、中小企業の23%のみがICTに投資していないのは、コストの問題に加え、ICTがもたらすメリットに気づいていないという理由が含まれる。

こうした中、政府はどう支援できるだろうか。コスト面の支援については、政府はICT機器、ソフトウェア、コンサルティングサービス、研究開発への投資に対する税額控除を拡大することができるだろう。

10%の税額控除が適用されれば、中小企業が1万ドルをICTに投資した場合、その税金は1000ドル削減されることになる。もちろん、税額控除はすでに利益を上げている企業を支援するものでしかないため、切望されるスタートアップ企業を支援するためには、日本政府はほかの多くの国ですでに実施されているような、10年から20年の「繰り越し」を制度化し、最終的に利益が出たときにその恩恵を受けられるようにすべきなのだ。

かつては日本も研究開発に向けた1年間の繰り越しを実施していたが、安倍前政権下ではそれが撤廃され、それが日本の革新的なスタートアップ企業不足の一因となっている。

EUに比べると予算が劇的に低い

EUでは、ICTの使い方を知らない中小企業を支援するために、2016年にデジタル化の専門家を中小企業に訪問させる「Digital Innovation Hubs(デジタル・イノベーション・ハブ )」を介して中小企業を訓練する試験的プログラムを開始した。EU委員会は、中小企業に高い満足度が認められたことから、このプログラムを拡大し、2021年から2027年までに、2000社を対象に92億ユーロ(1兆1600億円)の予算を設定している。拡大によって現在211のハブが設置されおり、今後多くの企業の支援を行っていく。

経済産業省は、「戦略的CIO育成支援事業」と呼ばれる、中小企業向けの安価なコンサルティングプログラムを独自に運営している。このプログラムでは、ICTの専門家を、1日あたりわずか1万7600円という非常に安い費用で、6カ月から1年派遣することにより中小企業を支援している(2016年時点)。その規模はICTの専門家育成だけでなく、中小企業向けコンサルティング全体で2000億円とEUのプログラムに比べると大きく見劣りする。また、2015年〜2019年の間、中小企業のわずか329社しかこのプログラムを利用していない。

菅首相がデジタル政策を発表した際、経済産業省は企業向けのコンサルだけでなく、支援全体で予算を倍増することを求めているが、これが承認されたとしても予定されたことを実施するには足りないだろう。日本におけるデジタル化の最大の障害はICT専門家の欠如ほかならない。

菅首相がデジタル化推進を政策に掲げたことを受け、経済産業省は来年度予算の概算要求で、CIO育成支援経費だけでなく企業のデジタル化全般を支援する費用として、390億円(3億7500万ドル)を計上した。これは2020年度予算の2倍近い規模だが、成立するかどうかは未定だ。この要求額は、EUの支援プログラムの一部であるコンサルティングの年間予算1650億円(16億ドル)に遠く及ばない規模だ。

日本におけるデジタル化推進の最大の障害の1つは、ICT人材の大幅な不足にある。2020年の不足人数は約30万人と見込まれている。2030年までに、日本は144万人のICT人材を必要とするが、推定では85万6000人しか確保できず、41%も不足することになる。日本で働く外国人のICT人材を拡充する努力を重ねる必要があるだろう。

それ以外の取り組みとして、大企業には、ICT人材が豊富な国に研究・生産施設を移転させるというオプションがあるが、中小企業にはそのような余裕はない。日本の成長は引き続き低迷し、実質個人所得はじり貧状態が続くことは避けられない。

財務省が、日本にはこうしたプログラムをまかなう予算はないと主張するのは明らかだ。しかし、それは「小銭には賢いが、大金には愚か」な考え方だ。日本の経済成長が低迷すれば、課税ベースは縮小し続けるだけだ。日本に選択の余地はないのが現実なのだ。

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