日本にある深刻な「デジタルデバイド」の実態 菅政権「デジタル政策」根本的に欠けている視点

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IMD(国際経営開発研究所)のICT利用に関するランキングでは、日本は「ビジネスの敏捷性」で、世界56位である。これは、企業がICTにどれだけ投資しているかではなく、ICTをどれだけうまく利用しているかを測るものだ。その結果、OECDの報告では、日本は、ICTと研究開発が主要な部分を占める「知識ベース資本」と呼ばれるものに投資した1ドルあたりの成長率で、富裕国の中で最下位だった。

ICTは、うまく利用されれば、流通、サービス、非ICT製造業など、経済のICT利用部門の生産性(資本と労働の1%の追加的投入につきどれだけの追加的生産が得られるか)を向上させることを可能にするはずである。残念ながら、深尾京司教授の研究によると、アメリカとは異なり、日本経済全体におけるICT利用部門では、ICTへの投資による生産性向上が期待できないことがわかった。

中小企業への支援がまったく足りない

最後に、政府は、とくに中小企業、すなわち日本の労働力の大部分を雇用する従業員300人未満の企業に向けた取り組みを確実に行う必要がある。日本は、中小企業と大企業の労働生産性の格差が他国よりも大きい。

その理由の1つは、ICTが十分ではないうえ、その利用も不十分であることだ。中小企業の生産性が向上しないかぎり、日本の生活水準は向上しない。

残念なことに、政府が日本の技術力を高めようとするとき、その努力の大半は大企業に注がれるのが一般的である。例えば、政府が研究開発のための事業費を増やすために提供する援助の90%は、すでに豊富な現金を持つ大企業に向けられている。

日本のデジタル化キャンペーンは、中小企業が直面している2つの問題、すなわち、ICT投資が十分でないこと、そしてICTの利用方法に関する知識が不足していることの両方に対処する必要がある。

ICTは、あらゆる業種の商品やサービスに変革を起こす力を持っている。それは大企業のみにとどまらない。

例えば、フィンランドのある食料品店が、ICTを使って顧客購買状況を分析したところ、同一顧客のおむつとビールの購入が週末に伸びていることを発見し、これは店にとっては思いもよらぬ結果であった。

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