起こるはずのない「医療崩壊」日本で起きる真因 各種データから読み解く「問題の真相」

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比較的小規模の医療機関が、コロナを受け入れれば収益が落ちるのではないか、感染対策はきちんとできるか、という不安を持つことは理解できる。

しかし、病床逼迫地域においては1床空けるごとに(診療報酬とは別に)750万円から最大1950万円の補助金がつくことになり、感染対策の支援策も手厚く出されている。金目の問題も、感染対策の問題も道筋はついている。あとは医療機関次第という状況である。

緊急事態宣言を“真に実効性のある手段”とするために

現行特措法下では、緊急事態といえども、外出自粛や営業自粛に関する法的な強制性は極めて弱い。緊急事態宣言を感染コントロールのための“真に実効性のある手段”とするためには、流行状況に関する危機感とこの宣言の必要性が、社会全体で広く共有されていることが前提となる。

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そのときに、医療者にとって重要なことがある。「医療が頑張らないから緊急事態宣言になった」という声に対して、医療者がどれだけきちんと答えられるかである。

医療者に感謝しよう、拍手しよう、というキャンペーンではもはや覆い隠すことはできない。医療者の社会的役割を問う声に対して、医療側から有効な反論ができなかったり、これを無視したりするようだと、緊急事態宣言が前提とする危機意識の共鳴は起こらない。

そうなれば、日本がかろうじて維持してきた感染のコントロールを完全に失うことになってしまうだろう。

全力でコロナ対応をしてきた病院と医療者には疲労が広がっている。これまで対応に及び腰だった一部の医療者も、その社会的役割を果たすべく、腹をくくる姿をみせることが求められている。

森井 大一 大阪大学医学部附属病院感染制御部医師

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もりい・だいいち / Daiichi Morii

大阪大学医学部附属病院感染制御部。2005年3月大阪大学医学部卒業、同年4月国立病院機構呉医療センター、2010年大阪大学医学部附属病院感染制御部、2011年米Emory大学Rollins School of Public Health、2013年7月厚生労働省大臣官房国際課課長補佐、2014年4月厚生労働省医政局指導課・地域医療計画課課長補佐、2015年4月公立昭和病院感染症科を経て今に至る。2020年8月から厚生労働省技術参与として新型コロナ対策にも関わる。※ただし、東洋経済オンラインへの寄稿は1人の医療者としての私見に基づくもので、筆者の関係組織の公式見解とは一致しない。

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