この時期地味に人気「ガレット・デ・ロワ」の魅力 1月に食べるフランス菓子の知られざる貢献

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技術水準を確かめる機会が、協会が毎年11月に実施しているガレット・デ・ロワコンテストである。1月には東京のフランス大使公邸で表彰式が行われ、優勝者は在日フランス大使に直径1メートルのスペシャルガレット・デ・ロワを献上する。シェフ会員が持ち寄ったガレット・デ・ロワが、約100台も並ぶ。京都のフランス領事館でも、総領事に献上する。

表彰式の際、ずらりと並んだシェフ会員制作のガレット・デ・ロワ(写真:クラブ・ドゥ・ラ・ガレット・デ・ロワ提供)


 表彰式には会員が集合するため、職人たちは情報交換を行い、菓子愛好家たちは、憧れのシェフと話すことを楽しみにしている。いずれも貴重な機会である。

もちろん、ずらりと並んだ各店のガレット・デ・ロワを食べ比べする楽しみもある。フランス好き、スイーツ好きな人が多い菓子愛好家たちは、口コミやSNSなどでガレット・デ・ロワとその魅力を自ら伝えるので、この菓子の広報的な役割を持っているといえる。

今年はコロナ禍で出場できないが、例年なら優勝者は、翌々年の1月にパリで行われるコンテストにも出場する。

今年は特別な意味があるものに

ガレット・デ・ロワは、今年もさまざまな店に並んでいる。大勢で集まることが困難な今だからこそ、記念日を集まって祝う幸せを思う人は多いだろう。浸透とともに、菓子自体のファンだけでなく、中に仕込むフェーブのコレクターも増えた。

そしてこうした菓子作りの実践が、世界的にも評価が高い日本の洋菓子・パン職人たちの技術を支えている。講習会やコンテストは、職人たちの技術の向上にも役立ってきた。

コンテストで優勝すると、フランス大使に直径1メートルのガレット・デ・ロワを献上できる(写真:クラブ・ドゥ・ラ・ガレット・デ・ロワ提供)

今、洋菓子店を取り巻く環境は、厳しい。さまざまなスイーツが入れ替わり立ち替わりはやるが、人気を集めるのは洋菓子店で扱うスイーツだけではない。近年はコンビニスイーツのクオリティも上がっている。材料費は上がり、職人やオーナーの高齢化問題もある。

そんな中、洋菓子店のパティシエたちはガレット・デ・ロワ制作などを通じて研鑽を積んできた。驚くほど高い水準の品質や芸術的な美しさや驚きを感じさせる、すばらしいケーキが今日も生み出されている。

コロナ禍で外出が難しい中、洋菓子店でケーキを買って自宅で楽しむ人、店が通販で売っているケーキを買った人も多いだろう。そして改めてそのおいしさを発見する人たちもいることだろう。もしかすると、そろそろ再びのスイーツブームが始まるかもしれない。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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