しかし、日銀は今や株式に「口は出さないが(誰よりも!)金は出している」状態にある。株価の判断については、国民に対して大きな説明責任を負っていると言える。
一方で、自らが日本株の最大の株主であり、かつ株価に影響を与えるプレーヤーでもあるので、日銀が株価に言及すると、利害関係者としての「ポジショントーク」の色彩を帯びることにもなる。説明責任を果たさないのも、ポジショントークも大変拙い。
はっきり言わせてもらうと、この困った状況は、ETF(上場投資信託)が金融緩和政策の買い入れ資産として不適切だったことに起因する。日銀のETF保有には、利益相反の問題(ETFの中には銀行株もある)や、議決権の空洞化の問題もある。ETF買い入れは失敗だった。経済政策としては、さっさと財政も使うべきだった。
もっとも、発信する情報の文脈を考えると、日銀は「金融政策だけで十分効果がありインフレにできるはずだとわれわれは確信している」という立場を取り続ける必要がある。彼らは、恋人に対して「必要時には、躊躇なく結婚する」と言い続けなければならない(しかし)優柔不断な男」のような立場にいる。
ただ、日銀に負担をかけすぎて、財政政策をもっと早く使わなかったことの責任は、財務省の側のほうがより大きい。財政は馬鹿の一つ覚えのように「再建」するものではない。適切に使うものだ。
コロナ禍での株高は、図らずも経済政策の良い教師となっているように思う。生徒(特に財務省と財務省寄りの緊縮好きの経済学者)は大いに教訓を学ぶべきだ。多くの日銀マンにとって、株価を大っぴらに論じることも、適切な財政政策について論じることも、「やりにくいこと」だろうが、現状を率直に認めたうえで、株価は高いのか安いのか、財政政策はどうなるべきなのか、大いに議論するのがいいと思う。
日銀マンには、もともと経済に興味があって議論好きな人が多いはずだ(そういう人を採っているはずでしょ?)。財務省や証券業界に遠慮して、やりたい議論をしないのは人生の無駄だ。それで行内での居心地が悪くなるなら、頭が衰えないうちに急いで転職したらいい。良い転職先はいくらでもあるはずだ。
今の株価は割高なのか、安いのか?
それにしても、現在、株価の議論は難しい。なぜなら、長短の金利が政策的コントロールの対象となり、また株価さえも介入の対象なので、金利、株価共に「自然に形成された水準が幾らなのか?」がわからない。
加えて、コロナの影響で企業の利益が不安定になっている。大まかに言うとコロナからの回復を前提とした企業業績に対して、実質金利がゼロで、長期的な実質経済成長率が+1%なら、PER(株価収益率)は20倍(=益利回り5%)くらいで「まあまあ適正」というくらいの株価ではないかと筆者は考えている。経験的にはPER20倍は少し高いのだが、実質金利がゼロに抑え込まれている状況なら悪くない。
そして、この上下5倍くらいは「誤差の範囲」だ、というくらいに投資家は考えておくといい。2019年度の実績に対してPER22倍程度の目下の株価は「普通の範囲」に入っていると思っていていいだろう。景気循環的に意外に利益が伸びる可能性もあるし、加えてバブル的な金融環境にあっては、大きな「上振れ」の可能性がある。
丑年なので、当面牛のようにどっしり構えていていい(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者がレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。
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