一方、株式市場においては、この「お金をぐるぐる回すと好循環になる」という実物市場においては誤解でしかない論理が見事に成立しているのである。
つまり、株式を誰かが買う。買うから上がる。上がったからさらに上がると思う投資家が出てくる。彼らも買う。さらに上がる。上がったから売ると儲かる。儲かった金でさらに別の株を買う。すると、この別の株も上がる。このように、株は買いが続けば、上がり続けるのである。
そうすると、上がったところで売って儲けた人が出てくるだけでなく、売っていないのに「儲かる人」が出てくるのである。いや、むしろこちらのほうが大半である。
つまり、市場で成立する株価が以前より上がっている。前に買った人は買い値よりも市場価格のほうが高い。つまり、簿価よりも時価のほうが高い。含み益が生じているのである。
そして、時価が常に正しいと思い込めば、投資の教科書には(ファイナンス理論においても)、ついている市場価格は常に正しいと書いてあるから、この含み益は、実現利益と違いはなく、利益である。資産総額が増えるのである。よって、強気になってさらに投資をする。つまり株を買う。だから、株がさらに上がる。こういうメカニズムである。
なんとも不思議な世界だが、もしも「おかしい」と思った方がいれば、そう、あなたは正しい。このロジックにはトリックがある。それも2つある。
「2つのトリック」とは?
ひとつは「市場価格は常に正しい」というものである。この前提は単純に間違いだ。
市場価格とは、理論的に正しい価格でも、現在の需給を反映した現実の市場ニーズの集計結果でもない。「たまたまついた値段」に過ぎないのである。誰かが間違って過大評価し、買いだ、と思って買いまくれば、価格は急騰する。一方、もし過大評価しても、実際に買わなければ株価は上がらない。ヤフーオークションの結果と同じなのである。
もうひとつは、株価が上がったから、さらに上がると思う投資家が出て来る、というところである。まるでねずみ講のようだが、実際、私はリーマンショック前に出版した著作「すべての経済はバブルに通じる」では、株式市場とはねずみ講であると冒頭で断言し、「この前書きだけがすばらしい」と当時アマゾンの読者レビューに書かれたものだ。
買えば上がり、上がれば買う、という連鎖が起きれば、ここで書いたような、株価上昇の循環が起こるが、これが起こることは保証されたわけではない。上がったら買うような、株価上昇に追随する投資家がいなければ、これは実現しないからである。これが実現するパターンはただひとつ。バブルである。バブルの時には、これが実現する。
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