精神病院「情報開示に消極的」な姿勢への大疑問 公的にも自主的にも隠し、患者には評価できない

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それでは公的に行われる情報開示についてはどうか。全国の精神科病院の現状を知る手段の1つに、毎年厚生労働省が各都道府県を通じて実施する「精神医療保健資料」という調査がある。毎年6月30日時点の精神科医療機関の実態を把握する目的で行われ、通称「630調査(ロクサンマル調査)」と呼ばれる。

調査の対象は精神科病院、病床を持たないクリニック、訪問看護ステーションだ。医師などのスタッフ数や病床数、隔離病棟の数、入院料などの病院自体の情報に加え、患者の年代、診断名、在院期間、身体拘束人数、隔離措置人数といった質問項目もある。

ただし公開されているのは、病院の設立区分や都道府県ごとに集計された数値にとどまる。本来、患者や家族が知りたいのは個別病院のデータのはずだが、そうした要望に応えるものにはなっていない。

この調査を活用して、患者たちの要望に応える取り組みを行ってきたのが、全国で当事者の権利擁護を目的に活動する、精神医療人権センターなどの市民団体だ。彼らは集計前の個別病院の実態がわかる個票を、情報公開制度を利用して集め、当事者が病院を選ぶときの参考にできる『精神病院事情』という冊子を各地域で作成してきた。冊子は病院に配布したり希望者に販売したりしている。

病院ごとの個別の事情を知ることが大切

「病院ごとに治療方針や患者の待遇が大きく異なるため、個別の事情を知ることが大切です」。精神科病院での長期入院や、身体拘束の問題に長年取り組んできた市民団体、「東京都地域精神医療業務研究会(地業研)」のメンバーで看護師の飯田文子氏は、冊子を作る意義をこう説明する。

実際に地業研が刊行する『東京精神病院事情2015年版』を見てみると、東京都内の70病院について、それぞれの病床数とレーダーチャートによる評価が記載されている。レーダーチャートの評価項目は「5年以上入院者率」「1年未満入院者率」「平均在院日数」「常勤医1人当たりの患者数」「常勤看護者1人当たりの患者数」「常勤コメディカル(ソーシャルワーカーや臨床心理技術者、作業療法士など)1人当たりの患者数」の6項目。

それぞれ5段階で点数化しており、高得点であるほうが、スタッフ数が多く活動性の高い「望ましい病院」としている。

統計データを踏まえた各院の特徴には、「平均在院日数は2424日(都平均230日)と断トツで都内最長。統合失調症の平均在院日数は何と3650日(同329日)に及ぶ」「死亡退院率が65%で群を抜いている」といった、驚きの記述もある。点数が高くても、身体拘束率などが高い場合もあり、特徴とチャート図を併せて見ることが大切だ。

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