プロ登山家が下山こそ重要と考える納得の理由 8000メートル峰14座登頂した竹内洋岳氏が語る

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頂上稜線に出た瞬間、飛ばされそうな爆風が吹き荒れていた。頂上には立ったというより抱きついた感じで、いたのはせいぜい1、2分。とにかく早く下らなければと。途中で日が落ち、ルートを見失った。生き延びようと必死で、ビバークし、夜通し歩き、最後みんなの助けを借りながらベースキャンプに戻った。そのとき初めて、14座登頂の実感が湧きました。たくさんの人との結び付きの中で登り、下り切ることができた。

14座を登って14座を下り切った

──同行したNHKの取材班には、登頂で終わる番組にしないことを約束してもらったとか。

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子どもの頃、先生が黒板に山の絵を描いて、1合目、2合目、頂上がゴールで「目標達成」、みたいなのありませんでしたか? 私は「あれ、下りは?」とすごく疑問に思ってた。14座目のダウラギリまでいくつもの山を下ってきてるのに、過去の映像と同じように登って終わりの番組になることだけは、絶対に受け入れられなかった。下ってきたからこそダウラギリに挑戦できた。14座を登って14座を下り切った、それが私の登山なんだという話をしたんです。

ほかのスポーツのように試合を全部見せなきゃ、記録としてフェアじゃない。格闘技なんてボコボコにされるところまで見せますよね。勝つ試合だけじゃない。それなのに山の場合は成功する番組しかないというのはおかしい。スポーツとしての14座登頂ならば、登れなかったというのも記録だし、場合によっては遭難して死んでしまうのも記録なわけです。ほかのスポーツがやってることとまったく同じ。登山だけを特別扱いする必要はありません。

──8000メートル峰踏破で、次に目指すものは何ですか?

未踏峰の山ですね。よくパートナーを組んでいたドイツの登山家たちと、1つ山に登るたび、次はどこに行こうかと話していました。14座登り切ったときも「さあ、これでほかの山に登れるな」と。別に人類にとっての未踏峰である必要はなくて、私が登ったことのない山を登り続けていきたい。

よく「あの人はあれがピークだったね」って言い方しますよね。でも私たちが生きていく中で、ピークって1回じゃないはずで、それより低いかもしれないけど、また次のピークがあるかもしれない。登山と一緒で登ったり下ったりを、私たちは繰り返していくんだと思います。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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