フェアトレード 倫理的な消費が経済を変える アレックス・ニコルズ/シャーロット・オパル編著 北澤肯訳 ~公正な価格が子どもの未来を生む

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フェアトレード 倫理的な消費が経済を変える アレックス・ニコルズ/シャーロット・オパル編著 北澤肯訳 ~公正な価格が子どもの未来を生む

評者 高橋伸彰 立命館大学教授

 私たちの日々の買い物がどこでどんな問題を引き起こし、逆に、どこのだれを幸せにしているのか。少なくとも私たちには選択肢があるし、その選択肢を増やすこともできると、本書の「あとがき」で訳者・北澤氏は述べる。実際、本書の編著者によれば「フェアトレードの狙いは、途上国のもっとも不利な立場におかれた生産者が、搾取ではなく……市場へのアクセスが作りだされることによって、極度の貧困から抜け出す機会を獲得すること」にある。

これに対し、主流派の経済学者は自由な競争によらず、生産者の「基本的な生活水準を満たす」か否かを基準にして決定される価格は必ずしも合理的でないと批判する。途上国の零細農家は、現実には「コヨーテ」と呼ばれる独占的な中間業者を介さなければ、そもそも市場にアクセスできない。しかも、「コヨーテ」が提示する低い価格では大人二人がフルタイムで働いても家族を養えず、児童まで過酷な労働を強いられるケースも多いという。

だから原理的な自由貿易よりも、貧困に苦しむ生産者が「適切な栄養と彼らが生活できる……十分なレベル」の価格で市場にアクセスできるよう、道徳の論理を優先する公正な貿易が必要なのだ。もちろん、フェアトレードだけで途上国のすべての零細農家に公正な価格を保障することはむずかしい。本書で引用されている調査からも明らかなように、「消費者の7~8割がフェアトレード製品にはより多くの価格を支払って良いと」思っていても、「そのような製品の市場シェアは個々の製品の1~3%にすぎない」からだ。

それでも本書の編著者は、援助やチャリティ(善行)より市場を通したフェアトレードを拡大するほうが、脱貧困の世界を築くうえで有効だと主張する。それは、市場へのアクセスが持続的な所得を生むだけではなく、「フェアトレードによって利益を受けている人たちが、子どもへの教育を重視し」、子どもの未来に対して積極的な投資を行っているからである。

もちろん、市場の現実は厳しい。フェアトレードのカカオで作ったチョコレートを私たちが1ドルで買っても、生産者には50分の1の2セントしか還元されない。それでも生産者の所得が2倍に増えると聞けば、拓かれている可能性の大きさが見えてくる。加えて「途上国から輸入されている農産品の80%が貧しい生産者によってつくられたもの」なのに、「フェアトレードの市場シェアは今のところ1~2%」にすぎないことを知るなら、私たちはもっと買い物の選択肢を増やし、活かすことができるはずだ。

Alex Nicholls
大手フェアトレード団体の役員の傍ら、イングランド南東部の地域社会的起業エクスパートグループに籍を置く。オックスフォード大学、トロント大学、リーズ市立大学等で教鞭を執る。

Charlotte Opal
持続可能バイオ燃料円卓会議事務局長。世界の紛争地域で作られた製品を扱う高級食材輸入会社ピースワークに勤めた後、トランスフェアUSAで新製品開発を担当する。

岩波書店 2940円 294ページ

  

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