「ビートルズとCTスキャン」の意外すぎる関係 マニアがもたらした「現金の山」による無形資産
この一部についてEMIは収益を得た──特許についてはGEとシーメンスからライセンス使用料を得た。だがその多くは損切りするしかなかったように見える。営業部隊構築にかけたり、結果的に失敗した事業部構築やブランドにかけたりしたお金を回収するのは難しい。それに比べると物理資産は、かなり専門的なものですらずっと売却しやすい。この無形資産の特徴をサンク性(埋没性)と呼ぼう。
スピルオーバーとシナジー
GEとシーメンス社がCTスキャナ開発に果たした役割も、無形資産の独特な性質を示している。かなり不公平ではあるが、投資を行った人物や事業が必ずしもその報いを得られるとは限らない。
ゴッドフリー・ハウンズフィールドが行ったくらくらしそうな研究開発、病院との設計作業、初期の売り上げをたてるための苦労はEMIに多少の収益をもたらしたが、その競合他社には巨大な新市場をもたらした。これはほとんどの有形投資ではありえないことだ。
GEはもちろん、自分のCTスキャナを作るのにEMIの工場に忍び込んだりはできた──そういう活動を止めるために、鍵や警報や法律というものがある。だが彼らは、EMIの無形投資を比較的安上がりに使えた。経済学の用語では、最初の投資家が無形投資の便益を手に入れるのは難しいこともある、ということだ。
あるいは別の言い方をすると、無形投資はしばしば、その投資を行う企業を超えたスピルオーバーがある、ということになる。
最後に、無形投資は他の無形投資と組み合わせると、劇的に価値が高まる。EMIの中央研究開発研究所は、コンピュータ、画像処理、電気工学に関する研究のるつぼだった。こうした各種の知識を、最初のスキャナが試験されたアトキンソン・モーリー病院の医師たちが持つ臨床の専門性と組み合わせることで、文句なしのブレークスルーが生まれた。
だが組み合わせることでこうした予想外の便益につながるのは、研究開発から生じたアイデアだけではない。GEのCTスキャナがやがて成功したのは、その装置への技術的投資にGEブランドと顧客関係を組み合わせた結果だった。
そしてもちろん、ビートルズ自身の成功は、新しい音楽的アイデア(エルヴィスからラヴィ・シャンカールまで)を組み合わせたのと、パーロフォン自身の無形投資、つまり、このバンドをプロモーションしてマーケティングする能力との組み合わせだ。このすべては無形投資の間のシナジーの例だ──こうしたシナジーはしばしば規模が大きいが予想しにくい。
(翻訳:山形浩生)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら