「ビートルズとCTスキャン」の意外すぎる関係 マニアがもたらした「現金の山」による無形資産
ビートルズがスターにのしあがったことで恩恵を被った企業の1つがレコード会社パーロフォンだ。この会社は1930年代から、エレクトリック&ミュージカル・インダストリーズ社に所有されていた。EMIと言ったほうが有名だろう(彼ら自身がセックス・ピストルズの歌のネタにされることとなる)。1967年には、EMIの利潤の3割はビートルズの売り上げによるものだった。
そのフルネームからもわかるとおり、EMIは単なるレコードレーベルではない。1960年代には、音楽だけでなく電気の分野でも興味深い企業だった。1959年にはEMIDEC1100という商用コンピュータを発売した。またカラーテレビカメラ、録音機器、誘導ミサイル、やかんも製造していた。
ビートルズマネーで脳外科手術もガン治療も一変
ビートルズマニアがもたらした現金の山のおかげで、EMIには投資文化が生まれた。彼らが投資したものの1つが、医療機器研究だった。EMIDECを生み出した研究者ゴッドフリー・ハウンズフィールドは、初の商業医療スキャナの開発に着手した。プロジェクトが進む中、イギリス政府もこれを大いに支援し、60万ポンド、または2016年価格に換算して700万ポンドも資金を提供した(Maizlin and Vos 2012)。
4年にわたり、彼とそのチームは初のコンピュータ断層撮影スキャナ(CTまたは「CAT」スキャナと呼ばれる─Aは「axial(軸)」の頭文字だ)を発明し、つくりあげた。
これは科学エンジニアリングの驚異的な成果だった。医師はこれで初めて、患者の柔らかい組織の正確な3D撮影が行えるようになった。これは本当の医学ブレークスルーで、脳外科手術からガン治療まですべてが一変した。ハウンズフィールドは山ほどの賞を受賞した。ノーベル賞ももらい、ナイトの称号も得て、王立協会のフェローにもなった。だが商業的な観点からすると、これはEMIにとって、どちらかといえば失敗だった。