「ビートルズとCTスキャン」の意外すぎる関係 マニアがもたらした「現金の山」による無形資産
EMIはその根底にある技術で特許を取り、事業化に向けて投資を行い、病院と提携してCTが医師にどう役立つかを調べようとした。スキャナをアメリカの病院に売り込む営業部隊も構築した。
だが1970年代が進むにつれて、CT市場を制覇するのは他の会社だというのが明らかとなった。ゼネラル・エレクトリック(GE)と、その後シーメンス社がEMIからいくつかの技術をライセンス供与され、すぐに巨大なCTスキャン事業を構築した。1976年になるとEMIは、CTスキャン事業からの完全撤退を決めた。
ビートルズの曲を聴いたりCTスキャンを受けたりしている人にはすぐにわからないかもしれないが、この物語はすべて無形投資に関するものだ。そしてこれは、各種の無形投資が物理的な有形投資と異なるポイントのいくつかを明確に示している。
スケーラビリティとサンク性
まず、ビートルズのカタログを想像してほしい。それらはきわめて利潤が高く、それによってEMIはCTスキャナを支援できるようになった。音楽の権利は一種の無形資産だ。いったんそれを所有したら、かなり低コストで好きなだけシングル盤をプレスできる(最近はデジタル音楽の時代だから、この費用はゼロ近くになっている)。
これは工場や店舗や電話線のような物理資産には当てはまらない。物理資産はいったん容量に達したら、新しいものに投資するしかない。だが無形投資は同じ物理法則に従わずに済む。一般に何度も使える。この無形投資の特徴をスケーラビリティと呼ぼう。
次に、EMIがCTスキャナ事業から撤退を決めたときに何が起きたか考えよう。彼らはかなりの無形投資をしてきた。最もわかりやすいのが、スキャナ自体を設計するための研究開発だが、スキャナの使い方について臨床医師と共同作業をした投入時間だ(これを設計/デザイン、とくにサービス設計と呼ぶ)。そしてアメリカ市場で商業的な地位を確立するためにも投資をした(ブランディングとマーケティング)。