過剰な雇用調整助成金でしわ寄せが若者に集中 経済をできるだけ動かして採用を増やす政策を

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景気が悪化した場合、厳しい解雇規制によって既存の労働者は守られているが、そのしわ寄せは新たに就職しようとする若者が受けやすい。いわば、新卒採用市場が雇用調整の役割を担っているともいえる。

近年は労働市場が良好な状態が長かったため、弊害が目立たなかったが、新型コロナによる景気の急激な悪化によって、日本の労働市場の問題が改めて浮き彫りになった。新卒採用が多い一方で、中途採用の門戸が狭いため、たまたま景気が悪い時に学校を卒業した若者は、能力とは関係なくその後も思うような職に就けなくなってしまう。このことは世代間の不公平にもつながるだろう。

失業抑制から経済を動かして雇用創出へ

政府は2020年12月末を期限としていた雇用調整助成金の特例措置を2021年2月末まで延長することを決めた。緊急事態宣言下で経済活動を停止せざるをえなかった時期にはやむをえない措置であったが、特例措置を長く続ければ企業内の雇用保蔵はさらに拡大する。このことは将来の雇用創出を妨げ、雇用情勢の改善が遅れるリスクを高めるだろう。

労働需要が増えなければ失業問題の根本的な解決には至らない。これまでの失業を抑制する政策から、経済をできるだけ動かすことによって雇用を生み出す政策へとシフトすべきである。既存の労働者を守り続けることで、日本経済の将来を担うべき若者がそのしわ寄せを受けるような事態は避けなければならない。

斎藤 太郎 ニッセイ基礎研究所 経済調査部長

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さいとう たろう / Taro Saito

1992年京都大学教育学部卒、日本生命保険相互会社入社、96年からニッセイ基礎研究所、2019年より現職、専門は日本経済予測。日本経済研究センターが実施している「ESPフォーキャスト調査」では2020年を含め過去8回、予測的中率の高い優秀フォーキャスターに選ばれている。また、特に労働市場の分析には力を入れており、定評がある。

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