ニッポン大企業の内憂外患
製紙会社に赤字危機 北米住宅着工減も影響
原料高が企業収益に与える打撃も大きい。特に深刻なのが紙パルプ業界だ。紙の原料となる輸入チップの価格はこの1年で30%上昇。主要出荷元である北米の住宅着工件数が減少し端材が減ったため国際的な奪い合いとなっている。原料古紙も中国などアジア諸国の需要増大で取り合いとなり、新聞古紙、雑誌古紙とも1年で価格が40%超高騰した。紙の強度アップや表面コートなどに使われる製紙用薬品もコーンスターチやナフサを原料としており、トウモロコシ価格・原油価格の高騰が響く。薬品メーカーからは「値上げに応じなければ出荷停止」を突きつけられている。工場で使う大量の重油も原油高の影響をストレートに受ける。
業界首位の王子製紙の場合、ドバイ原油が1バレル=1ドル上がると約5億円の燃料コスト増。08年度の原油価格が現状の90ドル前後となれば50億円以上の減益要因になる。古紙、チップを含む原料費は07年度に390億円超、製紙用薬品も同88億円超の負担増。チップや薬品の価格は足元一段と値上がりしており、このまま推移すれば08年度の原料コストはさらに400億円前後増えかねない。燃料高と合わせて450億円以上の減益要因となる。07年度営業利益予想が500億円だからその大半が奪われる計算だ。
他の製紙会社も同様の状況で、赤字転落を回避するべく値上げに必死だ。過去27年間、一度も値上げしたことがないという新聞用紙も値上げ交渉の俎上に載せ、「決死の覚悟」で交渉に臨んでいる。ところが、折も折、再生紙の古紙配合率偽装が発覚。値上げ交渉は中断中。燃料費削減へ新エネルギーボイラーを導入するなどコスト削減を進めるが、効果は限られている。値上げの浸透遅れ、原燃料価格の一段の上昇があれば、製紙業界の08年度業績は危険水域へと転落しかねない瀬戸際にある。
小麦価30%上昇が直撃 製パン会社の利益半減?
食品業界も原料高が直撃する。小麦、大豆、トウモロコシ、乳製品、パッケージに使うフィルムなど、ほとんどの原材料価格が急騰。07年度から値上げを段階的に進めてきたが、原材料市況高騰によるコスト高をまったく吸収できていない。
食用油大手の日清オイリオグループは当初、増益を予想していたものの、原料に使う大豆の価格が1年足らずのうちに2倍に急騰したため、300億円超(売上高の約1割)の減益要因が発生。07年11月の中間期決算時に一転、減益予想に下方修正した。このほかにも、J-オイルミルズや日清食品をはじめ、食品メーカーの下方修正が相次いだ。
08年度業績もまさに原材料市況次第。考えられるシナリオは三つ。メインは原材料市況の上昇ペースが鈍化、08年度から本格化する値上げ効果によって、わずかながらも増益になるというもの。だが、08年度から値上げが本格化しても、それを上回るペースで原材料価格の上昇が続き、減益となるという可能性も低くない。原材料市況が反落し、大手流通企業などへの値上げが通りにくくなって利益が一段と圧迫されるという第3のシナリオも考えられる。
いずれにせよ、原材料市況が今後大きく軟化する可能性は低く、食品メーカーにとって厳しい事業環境が続くのは間違いない。
中でも影響が大きいのが小麦だ。輸入小麦の政府売り渡し価格は昨年4月、10月に続き、今年4月からさらに3割引き上げられることが決定した。パン業界最大手の山崎製パンで月間8億円、年間100億円近いコスト増につながり、営業利益の半分が吹き飛ぶ計算となる。再度の値上げに加え、追加のコスト削減などを行うが吸収するのは難しいだろう。
07年半ば以降、食品メーカーは相次いで値上げを表明してきた。だが、プライスリーダーの大手流通企業・イオンが「価格凍結」を宣言したため、製品価格の値上げは原材料価格の上昇ペースに追いついていない。