高給取りの「製薬営業」が大量にクビにされる訳 ピークから1万人減、コロナ禍で過剰体質も露呈

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縮小

武田の国内営業部門は、がんや精神疾患など、疾患領域ごとに「ビジネスユニット」と呼ばれる部門で成り立っている。今回の再編の目玉は、ビジネスユニットの中でとくに規模が大きかった生活習慣病の部門の縮小だった。再編によって、これまで全国に150以上あった営業所は7割減らされて50カ所になった。

退職者募集開始後の面談では、「年齢だけでなく、担当する薬の領域でも回数に差があった。がんや専門性の高い領域の担当者は1回、生活習慣病では2回かそれ以上がスタンダードだったようだ」と前出のB氏は話す。

生活習慣病担当のA氏は、「新体制では1人ひとりが担当するエリアが広大になり、営業に行く医師を絞り込まなければとても回りきることはできなくなった」と話す。

武田は、ビジネスユニットの中でも、これから市場の成長が見込める、がんや希少疾患など専門性の高い領域を強化していく方針を打ち出している。多くの人員を割いていた生活習慣病の薬はすでに特許が切れているものも多く、価格が安い後発品も市場には出ている。リストラも、この領域の縮小が念頭にあったとみられる。

コロナ禍でMR淘汰は加速

今回、武田がMRを中心とした人員リストラに踏み切ったことに、コロナ禍が影響しているのは間違いないと社内では噂されている。「MRが活動していないのに売り上げが変わらないことに業を煮やしたクリストフ・ウェバー社長自身がリストラを断行したようだ」(同社関係者)という声もある。

コロナ禍によって、医療機関は感染予防のため外部からの訪問者を厳しく規制、各社のMRが医療機関に張り付き、医師の勤務の空き時間に殺到する営業スタイルは根本的に変革を迫られることになった。

MRの活動量は激減し、「1日の業務が、医師にメールを数通送るだけの日も多かった」(外資メーカー社員)。12月現在でも、大規模な病院ほど訪問規制が続いている。

だがここで、MRにとって不都合な真実が浮かび上がった。活動は激減したのに対し、薬の売り上げはほとんど影響を受けなかったのだ。「“不要論”はともかくとして、これまでも“過剰論”は根強かった。コロナ禍では、それが正しい仮説なのだと図らずも証明されてしまった」。『MR進化論』などの著書がある瀬川融氏は言う。

製薬業界OBは「製薬は、横並び志向が強い業界。何においても変わる時は武田が最初、武田が動けばほかも動きやすくなる、という雰囲気がある」と指摘する。

製薬に携わる多くの関係者は、「コロナ禍で製薬会社の経営陣はついに気がついたはず。来年以降、営業体制に大ナタを振るう動きが慌ただしくなるだろう」と予想する。リストラの嵐がまだまだ続きそうだ。

『週刊東洋経済』12月19日号(12月14日発売)の特集は「製薬 大リストラ」です。
石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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