国民の深層心理にそのことによって刻み込まれたもの、つまり、国家への不信が、さまざまな局面で出てきているような気がします。もちろん、国家側もその不信を解消させようと、戦後いろいろな手を打ってきました。
例えば、国民皆保険制度というものがあります。1961(昭和36)年にスタートしたものですが、その基盤となった国民健康保険法は岸信介政権の1958(昭和33)年に成立しています。確かに、日本が誇るべき仕組みではありますが、戦後に国が国民に対して謝罪したという見方もできるんです。戦勝国であった米国にはない制度です。同じ戦勝国でも戦闘の直接被害を受けた欧州にはある制度です。
戦争で生き残った人たちは国家を強く警戒していた
――戦争による国家不信という深層心理の問題です。ワクチンへの信頼度の低さにもそれが現れている、ということですね。他にもありますか?
上:ある財務省事務次官経験者と話していた時に感じたものがあります。彼は主税畑の人でしたが、こう言っていました。戦争体験のある父親が「国を信頼してはいけない」と死ぬまで言っていたが、税を取る立場になってそれがよくわかったと。皆保険もやってきたし、所得税もずっと下げてきた。だけど、増税になるとそうはいかない。大平正芳政権の一般消費税、中曽根康弘政権の売上税……と消費税を上げようと思うと、内閣が倒れた。何度倒れたことか。まだまだ許してもらえていないんだなと。
国家の信頼というのはとても大切だ、と言っていましたが、なるほどと思いました。昭和30年代から40年代はまだまだ戦争が身近にあった時代で、戦争で生き残った人たちが社会の中枢を占めていました。この世代は国家のやることに対して強い警戒心を持っていました。だから、池田勇人首相とか田中角栄首相の時代は、財政拡大型の政策しか取れなかったんだと思います。逆に言えば、国家への信頼度の高い国では消費税も高いですね。北欧がそうです。コロナの被害も欧州の中では軽いほうでした。
――ワクチン開発はあまり期待できない。開発されても再感染の問題がある。国民の信頼度もまた高くない。となると、集団免疫のスウェーデン方式が浮上してきます。
上:スウェーデンは、国民との一体化が行き過ぎたケースでした。むしろ、適切な防御をしなかったということになります。極端な集団免疫は国民を不安に陥れます。高齢者には死のリスクが高いからです。そこが経済活動に負のウエートをかけます。スウェーデンはコロナ死者数、経済成長で、隣国であるノルウェーやフィンランドに圧倒的に負けることになります。
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