――はっきり言えば、あまり期待できないということですか?
上:コロナワクチンの効果以前の問題もあります。免疫性と再感染の問題です。最近になってコロナの再感染が、複数報告されています。8月末にアメリカのネバダ大の医師たちが報告した25歳男性の症例は要注意です。この症例は、4月に初感染し、その48日後に2回連続で陰性と判断された後、6月に再度、陽性となりました。感染したウイルスはシークエンスされ、4月と6月のウイルスゲノムの間には有意な遺伝的不一致があったことがわかっています。
注目すべきは、再感染時の症状です。詳細は不明ですが、初回感染より、再感染のほうが重症だったというのです。つまり、実際に感染しても十分な免疫がつかないことを意味しています。これは季節性コロナウイルス(新型でない)の免疫に関する報告とも一致します。
9月14日、オランダの研究チームが、イギリスの「ネイチャー・メディシン」誌に発表した研究によれば、季節性コロナに罹患しても、半年程度で感染防御免疫はなくなり、4種類の季節性コロナのうち、ある1種類の季節性コロナに罹っても、ほかの季節性コロナの感染は防御できなかった、というのです。新しいコロナと言えどもコロナの一種なので、ワクチンの効果は極めて限定的なものになる可能性が高いと思います。
一冬に何度も風邪をひくという経験とも合致
皆さんが一冬に何度も風邪をひくという経験とも合致する話です。現時点で、ワクチンの開発成功に過大な期待は抱かないほうがいい、と考えるのはこれらの事例があるためです。意外とこういうことが国民に伝わっていません。日本もいつまでも、ワクチンさえできれば万々歳という調子で議論をしていてよいのでしょうか。もしかしたらワクチンはできないかもしれない。それならば、別の対応を取らなければいけない、ということも念頭に置くべきです。
――それにしても日本人にはワクチン待望論が強い。
上:統計的にはそうでもないようですよ。WHO、国連が出したデータの中で世界で一番ワクチンを信頼していない国は日本と出たんです。興味深いデータでしょう。ワクチンを信頼していないという回答が日本以外の国で多かったのはドイツやフランスでした。戦敗国、戦勝国の差はありますが、共通点はあの第2次世界大戦で辛酸を嘗めた国々です。70歳代、80歳代の戦争経験者では特に信頼度が低くなっています。これをどう考えるか。
――上さんはどう思われる?
上:ワクチンに留まらない問題が背景にあるような気がします。国家に対する信頼度全般の問題です。戦争体験からくるものです。日本の場合は、後から振り返ればとても勝てるわけがないとわかっていた戦争になだれ込み、開戦の翌年からはもう負け戦になっていたにもかかわらずそれを大本営発表で誤魔化し、本土空襲でほとんど国民を守ることができなくなるまで闘い続け、最後は2つの原爆投下で完膚なきまでに敗北しました。その戦争責任問題が日本人の手によってしっかりと総括されたかといえば自信がありません。
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