三越伊勢丹とJフロント、赤字幅に差がつく必然 百貨店業の一本足打法を放置したツケは大きい

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三越伊勢丹も約1700億円相当の建物と約5300億円相当の土地(2020年9月末時点)を保有している。都心の一等地に物件を保有する百貨店各社の中でも随一の規模で、近年ようやく不動産事業の強化に着手。三越日本橋本店に家電量販店のビックカメラが入るなど一部店舗でのテナント誘致や、ショッピングセンター(SC)運営の拡大を進めているほか、保有不動産周辺の再開発も検討してきた。

ただ、豊富な保有資産を有効に活用できているとは言いがたい。2020年3月期には不動産事業で59億円の利益を稼いだとはいえ、SC事業を新たな軸に据える高島屋の99億円や、Jフロント(パルコ、不動産両事業の合計)の175億円には遠く及ばない。三越伊勢丹は不動産運営のノウハウに乏しく、コロナ影響で一部の計画見直しも強いられており、先行する競合他社のような収益貢献ができるまで成長するには時間を要するのが実情だ。

EC強化も付け焼き刃、コスト改革が急務

「仮にコロナが落ち着いたとしても、売上高がコロナ前の2019年3月期の水準に戻るとは考えにくい」。三越伊勢丹の杉江俊彦社長は、百貨店業界の先行きに厳しい見方を示す。というのも、リアル店舗からEC(ネット通販)への顧客流出がさらに加速していくうえ、在宅勤務の普及でビジネス用衣料品・雑貨などの需要が先細ることは確実だからだ。

外出控えによる消費の「ニューノーマル」に対応するため、EC事業を強化しようとしているが、現状では付け焼き刃にしかならない。今2021年3月期のEC売り上げは前期と比べて48%増の310億円に成長する見込みではあるが、売り上げ全体の約4%に過ぎず、激減する店舗売り上げを補填するまでには程遠い。

そうなると、インバウンド需要が回復するのを待つ間に、コストを削減するしか有効な手立てが見当たらない。同社は今2021年3月期中にも広告宣伝費や賞与などの販売管理費を1割程度削減する計画。店舗で接客に当たる人員を20%配置転換し、EC事業などで従来外注していた業務を内製化するなど、高コスト体質を変える取り組みも進める。

ただ、 コロナによる売り上げ低迷が想定以上に長引けば、地方の不採算店の追加閉鎖など、もう一歩踏み込んだリストラ策も必要になってくる。 杉江社長が「今の水準の売り上げが続いたとしても赤字にならないような取り組みを進める」と語るように、いかに聖域を作らず固定費を圧縮して損益分岐点を下げられるかが問われることになる。

岸本 桂司 東洋経済 記者

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きしもと けいじ / Keiji Kishimoto

全国紙勤務を経て、2018年1月に東洋経済新報社入社。自動車や百貨店、アパレルなどの業界担当記者を経て、2023年4月から編集局証券部で「会社四季報 業界地図」などの編集担当。趣味はサッカー観戦、フットサル、読書、映画鑑賞。

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