「住みたい街」劇的変化に鉄道会社が抱く危機感 東急「池上」に見る地域開発に起きている変化

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これについては2018年3月の同社の中期経営計画の中で、非常に踏み込んだ表現をしている。

「まず、沿線価値向上について、今回の計画では、5つの『重点エリア』を指定し、各エリア内に、『職・住・遊』が揃う拠点を整備していきます。都心通勤が難しい方でも、サテライトオフィスの設置等により、新たな就労機会が生まれます。また通勤時間が減ることで、オフの時間が確保でき、ワークライフバランスの取れた生活が送れる、沿線価値、生活価値、双方に恵まれたエリアになると考えます」

わざわざ都心へ通勤しなくても、住んでいる地域で働くことができ、そうした選択肢があることが沿線の価値を上げ、住む価値につながるというのである。

もう1つ大事なのは、エリアマネジメントの主体は本来、鉄道会社ではなく、そこに住んでいる人が望ましいということだ。東急沿線では世田谷線の松陰神社前のように地域から動きが起きている例もあるが、通常は誰かが最初のアクションを起こさなければ動きは始まらない。

この点について、東急経営企画室経営政策グループ・小林乙哉氏は、「新しい公共の形を構築する必要があると考えています。地域の方々の主体的な取り組みを、行政と一緒に支える役目をするのが東急ではないかと。それを意識して始めたのが東急池上線池上の街づくりです」と話す。

池上のプロジェクトはまだ始まったばかりで、成否の判断にはまだまだ時間がかかろう。また、街によって住んでいる人は異なり、歴史や産業構造などにも違いがあるため、ここでうまくいったとしてもほかでうまくいくかどうかはわからない。だが、最初のきっかけがあれば自ら課題解決ができることはわかった。

鉄道、不動産にできることには限界

とはいえ、選ばれる街が生まれたり、増えたりしたとしても、それによって都心~郊外間の通勤客が減った売り上げを補うのには時間がかかるはず。地域内での細かな移動をMaaSで取り込むとしても、鉄道会社としては厳しいのではなかろうか。

その質問への答えは「東急は街づくりの会社です」 だった。鉄道と不動産を両軸に街を開発してきてはいるが、そもそもは澁澤栄一の自然と都市の長所を併せ持つ理想の街を作るという構想から始まった会社である。 鉄道事業の売上高はグループ全体の約4割。決して少ない数字ではないが、鉄道オンリーの会社ではない。

渋谷の開発では大規模オフィスビルばかりが建てらているというイメージがあるかもしれないが、、実は渋谷も「職・住・遊」が揃う街として計画されている(写真:筆者撮影)

「かつての鉄道は最先端テクノロジー。だから鉄道と不動産を手段として街を作ってきましたが、いまや鉄道や不動産にできることには限界がある。今後はデジタルでCaaS(City as a Service)を手段として選択肢のある、選ばれる街を作っていくことになると考えています」と山口氏は語る。結果が見えてくるのは田園都市線の開発同様、20年後、30年後になるのだろうが、そのときに今を振り返っていい選択だったと言えるか──。

ちなみに関西では阪急電鉄を擁する阪急阪神ホールディングスグループも2019年3月期では、鉄道の売上高は全体の約3割と比較的少ない。戦後恐慌で窮地に陥った澁澤栄一が事業立て直しのために相談したのが阪急電鉄の創業者・小林一三であったことを考えると、企業のDNAは引き継がれるものらしい。鉄道が手段か、目的か。同じように鉄道を運営している会社でもその違いによって対応には違いが出てくるのだろう。

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