「住みたい街」劇的変化に鉄道会社が抱く危機感 東急「池上」に見る地域開発に起きている変化

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しかし、ここに1つ問題がある。オフィス街には会社やビルオーナー、場所によってはエリアマネジメント組織など地域の課題解決を試みる存在がある。だが、住宅、とくに一戸建てが中心となる住宅地にはそうした組織は現状、ほとんど存在していないのだ。

かつては町会や商店街といった組織がそうした役割を担っていたはずだが、現在はどこの町会、商店街も高齢化が進み、後継者不足。空き家増や若い人の減少、買い物難民出現、防災力低下といった街の課題解決や、よりよい地域づくりに目を向ける余裕はない。

最近、災害に抗する力として公助、共助、自助なる言葉があるが、共助の主体となる存在がないのが多くの住宅街なのである。そうした街の課題を放置したまま、働く場などの施設を用意するだけで選ばれる街になれるのかは微妙だ。

「これまでどおりの街づくりできない」という問題

地方と違い、首都圏では高齢化や人口減少などの地域の課題に対する危機感は公民ともに薄い。そのため、郊外のニュータウンなどの一部では街作りの活動があるものの、それ以外ではあまり動きがない。そんな中、比較的早い時期から地域の課題に取り組んできたのが東急である。

代表的な例は2012年に横浜市と包括協定を締結し、東急田園都市線沿線で推進する「次世代郊外まちづくり」だろう。東急田園都市線はたまプラーザや青葉台など人気の街を擁する沿線ではあるが、開発から40~50年を迎え、駅前は別として少し離れた住宅地では高齢化が進み、空地・空き家が発生。若い人に選ばれにくくなるなど陰りが見えている。その問題に行政、住民、そして鉄道会社の3者で立ち向かおうというのである。

だが、開始当初は活動状況を見聞きするにつけ、感じるものがあった。東急が目立ちすぎるのである。そもそも田園都市線沿線の街は東急が開発し、鉄道を敷いたもの。住民、行政が頼りたくなる気持ちもわかるが、それでいいのか。その違和感は東急沿線に長く住み続けて感じてきたものとも重なる。親切ではあるが、それが自分たちの街をなんとかしようという動きを阻害しているのではないか。

しかしここ何年か、その方向が変わってきた。きっかけとなったのは3年ほど前の社内での議論だったと東急経営企画室経営政策グループの山口堪太郎氏は振り返る。今後も渋谷を始め、開発や既存施設の作り替えはあるものの、東急が過去50年間やってきたような、街に足りないものとして商業施設を足す、満たさなくてはいけないものを作るという意味での開発はなくなってきている。それぞれの街が抱える課題が変わってきているからだ。だとすれば、街づくりも変わらざるをえない、という問題意識があった。

社会も変わってきている。人口や経済が成長する局面では、職住分離や、単機能の住宅街は効率的だったかもしれない。しかし、多様な働き方、暮らし方が生まれるこれからの時代に、果たして郊外から都心へ混雑した電車に乗ることが前提の、住むだけの街に魅力があるのか。

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