明石家さんま「人生で一番ウケたネタ」の中身 人を笑わせることに人生をかけた男の高校時代
漫談の才能に教師も驚く
高校生の杉本高文(明石家さんま)は、親友の大西康雄と過ごす日々が楽しくて仕方がなかった。2人の周りにはいつも笑い声が響いていた。人を笑わせると自分も笑顔になれる。大声で笑うと嫌なことをすべて忘れることができた。
部活の帰り、行きつけの食堂で仲間たちとうどんを食べながら、その日笑わせたことを振り返り、その余韻に浸りながら、「次は何をして笑わせようか」、高文はそう考えるだけで心が弾んだ。
テレビ、ラジオの演芸番組を熱心に見ていた高文は、落語の演目を覚え込み、クラスメイトの前で演じることもあった。落語よりもよくウケたのが、中学生の頃から披露していた漫談だった。
アニメ『巨人の星』の登場人物である星飛雄馬、伴宙太、花形満、星明子を1人でこなす「ひとり巨人の星」と題したものまねや、声を出さずにスポーツ選手などの形態や動作をまねる「形態模写」を織り交ぜながら、時間の許す限り、ひたすらしゃべり続けた。
これを見た英語教師の坂本は、高文の笑いの才能に驚き、授業を時々中断しては、高文に新作漫談を披露させるようになる。高文は毎回、テレビ、ラジオからネタを仕入れ、期待に応えていた。
ある日、坂本は高文の漫談をひとしきり聞いた後、感心しながらこう告げた。
「杉本、おまえ、吉本入れ」
教室中に笑いが起こった。高文は人を笑わせることが好きではあったが、このときはプロになる気はまったくなかった。
「芸人って売れへんかったら悲惨やろ?」
「おまえは絶対いける。俺が保証したる!」。坂本の顔は真剣そのものだった。高文は照れ隠しでこう返した。
「売れへんかったら、先生の養子にしてもらうで?」
「……それだけは勘弁してくれ」坂本の顔がほころび、教室がワッと沸いた。
さんま「毎日毎日、何やって笑かそうかばっかり考えていたね。もうその時点で大学へ行く気なかったし。机に向かっては、きょうこのギャグやったから明日は何して笑かそうかって、そればっかりや」(明石家さんま『ビッグな気分』集英社、1980年)
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