日本も他人事ではない米国「医療崩壊」の深刻度 地元病院に空きがなく600キロ移送される例も

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ウィスコンシン大学付属病院は地元紙に「ただちに状況を変えなければ、病院は能力の限界に達し、コロナだけでなく、ほかの病気やけがも含めて、診療できなくなる患者が出てくる」と窮状を訴える広告を出した(写真:Lauren Justice/The New York Times)

顔面と頭皮の激痛に苦しむトレイシー・ファインさん(61)は、緊急救命室の廊下で待たされ、13時間もストレッチャーに乗せられたままとなっていた。

ファインさんが運ばれたのはウィスコンシン州マディソンの病院。新型コロナウイルスに感染した患者でベッドは埋め尽くされ、あまりの慌ただしさから、担当の看護師もファインさんがどんな問題を抱えているのか思い出せなくなるほどだった。鎮痛剤や食事もなかなか運ばれてこなかった。

600キロも先の病院に転院

ミズーリ州の小さな地方病院では、シェイン・ズンデルさんの激しい頭痛が脳膿瘍(のうよう)であることが判明した。通常なら数時間以内に手術しなければならない状態だったが、対応できる脳神経外科医と病床が見つかるまで丸1日を要した。しかも、ようやく見つかった転院先は375マイル(約600キロメートル)も離れたアイオワ州の病院だ。

ニューメキシコ州からミネソタ州、それにフロリダ州に至るまでアメリカ中の病院が記録的な数のコロナ患者であふれている。小規模な病院のスタッフはより大きな医療センターに対して、患者をあと1人、あと1人だけでいいから受け入れてもらえないかと繰り返し懇願するが、大規模病院は患者の受け入れを厳しく制限している。そもそも、大規模病院の待合室や病棟が患者であふれかえっているからだ。

春の段階では、パンデミックは主にニューヨークなど一部の地域に集中していた。ニューヨークなどで医療が大混乱に陥るのを目の当たりにした他州の病院は、これを教訓としてコロナの感染拡大に備えてきた。

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