テレビ局の未来を悩ます「田中角栄の置き土産」 菅政権で放送の悪しき前例主義はどう変わる

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答申は、テレビ局から電波を召しあげることまで示唆している。

「今後、ブロードバンドがユニバーサルサービス化され、ブロードバンドを経由してインターネット同時配信が全国あまねく届けられるようになった時、地上波4K放送を含めた地上波の高度化に当たって、放送ネットワークだけでなく、ブロードバンドでも伝送できる可能性が高い。このため、放送波でサービスが全国民に届けられる必要があるのか検証する必要がある。放送のユニバーサルサービスの整備や維持には多大な費用を要する」
「放送波による全国網を、ブロードバンドのユニバーサルサービス化と並行して別途整備する前に、上記の国民負担との関係や放送事業者の経営環境や投資余力にも配慮しつつ、コストとベネフィットをしっかり比較考量し、国民に説明する責務がある」

つまり、維持整備に金がかかる電波を「番組を届ける」というだけの目的のために使う必要があるのか? と強烈に問いかけているのだ。

放送局存続より国民の利便性向上

政府が第一義に考えているのは、放送局の存続ではない。国民の利便性向上だ。視聴者にとっては、ニュースやドラマや情報番組は、見えさえすれば電波だろうが配信だろうが関係ない。

配信網が全国に整備され、放送と同じように番組が全国あまねく届けられるようになったら、貴重で有限な放送用の電波は、IoT、ロボット、AI、ビッグデータ等をあらゆる産業や社会生活に取り入れた未来の生活として政府が掲げる「Society5.0(ソサエティ5.0)」を実現するために使うべきではないのか。

電波をどう使うのか、どちらが国民の利便性向上に役に立つのかしっかり考えるべきだ——答申の内容を意訳するとこういうことになる。

この電波の返上は実現するにしても、まだ先のこと。しかし規制改革推進会議の答申に書かれたということは、政府の将来の大方針としてしっかりと位置づけられたと受け止めるべきだ。

これまでテレビ局経営者は、ネット配信は重要と言いながら、面倒な権利処理を言い訳に少しでも先延ばししようとしてきた。衰えつつあるとはいえ、まだ巨額な収入を得られるテレビ広告の存在があったためだ。

だが、コロナ禍によってテレビ広告市場はシュリンクし、広告収入はかつてないほど減少している。このまま変化から目を逸らし逃げていれば、テレビが国民から見捨てられる日はそう遠くないだろう。

氏家 夏彦 メディア・コンサルタント

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うじいえ なつひこ / Natsuhiko Ujiie

TBSで報道、バラエティ、情報番組の制作、デジタル部門責任者、経営企画局長、コンテンツ事業局長。TBSメディア総合研究所社長、TBSトライメディア社長、TBSディグネット社長を歴任後、2017年7月に独立。『GALAC』編集委員。

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