中国外相来日「国名なき共同声明」となったわけ 中国政府の対日接近はいつまでも続かない

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対するオーストラリアは日米政府が積極的に進めている「インド・太平洋構想」に積極的姿勢を見せ、10月に日本で開かれた「日米豪印」4カ国の外相会談に参加。11月にはインド洋で行われた日米印の共同軍事演習「マラバール」に久しぶりに参加した。いずれも中国に対する強い姿勢を見せるためのものだ。

新型コロナ感染拡大期にモリソン首相がわざわざ訪日し、対面形式の首脳会談に臨んだのも、中国との決定的な対立を前に日本との連携を確認するためだった。それだけに中国の14項目の非難は、中国がオーストラリアに対する強硬姿勢を変えるつもりがないという強い意志を示したことになる。

それとは対照的に、日本に対しては王毅外相が来日し、笑顔を振りまいて帰国していった。中国の狙いは明確だ。米中対立は中国政府にとって頭の痛い問題で、日本への接近は事態打開の糸口になりうるとみているのだ。特にトランプ大統領からバイデン新大統領への移行期は中国が動く好機でもある。日本の外務省幹部によると、「日本側は王毅外相の来日についてあまり乗り気ではなかったのだが、中国側が繰り返し熱心に要求してきた」という。

王毅外相来日を控えていた日本

では日本政府の対応はどうだったのか。日本は伝統的に日米同盟関係を維持しつつ、中国とは経済を中心とする関係を進め、決定的な対立を避けるという方針で臨んできており、それは今も変わっていない。日本が直接関係する尖閣諸島問題などは強い姿勢で臨むが、中国国内の人権問題や香港問題などには深入りせず、それによって決定的対立を避けてきた。

2020年7月に行われたアメリカとオーストラリアの外務・防衛閣僚会議(2プラス2)の際の共同声明では、香港やウイグル問題で中国を名指しして批判している。今回の日豪首脳会談でも、おそらくオーストラリアとしては「中国」という名前を共同声明に入れても問題はなかったが、日本側は王毅外相来日を直後に控えており、直接的な言及は避けたかっただろう。それが国名なき共同声明になったと推測される。

だからといってオーストラリアが中国と決定的に対立し、一方で中国は日本に接近してきているという状況がいつまでも続くわけではない。アメリカのバイデン新政権の陣容が固まると対中政策の姿が浮かんでくる。それを受けて中国と日本、オーストラリアなどの政策も変化するだろう。

中国が大国化し、米中対立が世界情勢に大きな影響を与えるようになった今、日中関係はアメリカの動きなど対外要因によって大きく左右されやすいものに変質した。日本が国益を優先し、独自の対中戦略を作っても実現することがますます困難な時代となった。つねに四方八方に目を配りつつ、安定的な関係を維持していかなければならない。まことにやっかいな時代の外交である。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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