08年初めからは、モーゲッジローンの残高も減少を始めた。つまり、ネットの借入額はマイナスになったのである(消費者信用は09年から)。したがって、住宅投資のみならず自動車購入も大きく落ち込むことになったのである。
では、今後はどのように推移するだろうか。
09年第3四半期末において、モーゲッジローンと消費者ローンの残高は、それぞれ10・3兆ドルと2・5兆ドルだ。ピークであった08年第1四半期末と比べると減少はしているものの、01年ごろと比べると、まだかなり高い。したがってローン残高は、今後も減少を続ける可能性が高い。
アメリカの住宅価格バブルやその後の金融危機は、日本経済とはかかわりのない現象だとする考えが、金融危機のさなかにおいても、日本では一般的だった。バブル崩壊でアメリカ経済は大きな痛手を受けるが、日本経済がそれに影響されることはないだろうとの考えである。
アメリカの消費が借り入れで支えられていたことは事実であり、住宅価格下落でアメリカの家計が大きな痛手を負ったことは事実だ。しかし、それは日本経済にかかわりのないことではなかった。なぜなら、自動車の売り上げがこれと密接にかかわっており、そして自動車産業は日本の中心的産業であるからだ。
アメリカにおける自動車購入が住宅ローンのキャッシュアウトによってなされたのだとすれば、それが06年ごろまでのレベルに回復することは期待できない。アメリカにおける自動車の販売は、今後長期にわたって停滞するだろう。それは、これまでアメリカ市場に大きく依存してきた日本の自動車産業にとって、極めて深刻な問題だ。
【関連データへのリンク】
・グリーンスパンらの推計 Alan Greenspan and James Kennedy,”Sources and Uses of Equity Extracted from Homes,” Finance and Economics Discussion Series: 2007-20, March 2007.
・グリーンスパンらの推計を紹介する DAMON DARLIN のNYTコラム(November 4, 2006)
・リファイナンスについての説明
・2004年通商白書(第1章第4節)
・アメリカ個人消費の内訳
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。
(週刊東洋経済2010年3月20日号 写真:今井康一)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら