実は、今回の政府による「国内トラベルバブル」の打ち上げには、さまざまな伏線がある。マレーシアは今年3月、新規感染者数の急速な伸びが確認されてすぐに、東南アジアでいちばん初めに国境封鎖を断行しており、海外からの渡航者をシャットアウトした。しかし、感染「第1波」が収束を見せて、いわゆるロックダウン(マレーシアでは活動制限令=Movement Control Order)が徐々に解除され、州をまたいだ移動の禁止が解かれた6月10日以降、これまで「ステイホーム」「リモートワーク」で自宅に籠っていた国民の旅行熱はにわかに高まった。
マレーシアの観光芸術文化省(MOTAC)は、6月13日から国内観光を促すためのプログラムを実施。国内旅行の回復とともに、観光地をはじめとした国産品の認知向上と販売促進への取り組みを発表したが、政府が多額の補助金を投じた日本のGoToトラベルとは異なり、国内旅行費用の上限 1000 リンギ (約2万5000円)までを個人所得税から控除、ホテルのサービス税免除などの対策に留まったため、より大規模な支援策を求める声が旅行業界関係者から上がっていた。
観光業界の自助努力でなんとか需要を喚起
一方で、観光地の首都クアラルンプールや世界遺産を有するペナン島、リゾート地ランカウイ島などの大手ホテルは相次いで大幅な値下げプランを打ち出して集客に躍起となった。首都クアラルンプールでは海外からのビジネス客の激減により受けている打撃を少しでも緩和しようと、国内観光客向けに「ステイケーションプラン」を始めるなど、試行錯誤の努力がなされてきた。
また、格安航空会社(LCC)エアアジアは、国内線「乗り放題」で 399 リンギ(約1万円)という破格の航空券を、国内旅行が事実上解禁された当日の6月10日に発表。「観光業再生に向けて、ホテル業や旅行代理店などの関係者を支援し、国の経済再建に貢献したい」という声明を出し、翌 11 日から3日間限定で販売した。この乗り放題チケットには発売直後から予約が殺到。急遽、販売期間が伸ばされ、まさに大盤振る舞いとなったわけだが、これは4月以降ほぼフライトを飛ばすことができず、損失が急拡大していたエアアジア側の企業努力によるところが大きいものだった。
こうした観光業界の自助努力の結果もあって、活動制限令中の4月は10%以下にまで落ち込んだ国内ホテルの稼働率は上昇傾向を見せ、8月末の3連休には平均で42%に達し、リゾート島の人気ホテルなどでは連日満室となり予約が困難になるほどの盛況を見せた場面もあった。
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