母親の介護で生活が破綻した65歳男性の本音 介護離職は貧困への入り口だと専門家は指摘
埼玉県に住む高野昭博さん(65)は、介護で自身の生活が破綻した。
20年前、45歳のとき。「老老介護」の状態だった両親を助けるため、父ががんになったのをきっかけに、勤めていた大手デパートを退職した。
「あのときは、親の介護で後悔したくない、という思いが強かった。仕事を辞めることに迷いはなかった」
しかし、その2週間後、父が77歳で他界すると、母の認知症が進んだ。兄がいたが頼れる状況にはなく、もともと親の面倒は自分で見たいと思っていた独身の高野さんが、1人で介護することになった。
ただ、当時は介護についての知識は何もなく、公的サービスの存在すら知らなかった。母の貯金はほぼゼロ。年金もわずかだったため、介護にかかる費用のほとんどを高野さんが払い続けた。
介護のため離職したのち、生活が破綻
一方で母は、高野さんが留守の間にやってくる訪問販売の業者から、180万円の羽毛布団や30万円の真珠のネックレスなどを買っているときもあった。
高野さんは、何度か再就職もしたが、年収は200万円台という厳しい時期も続いた。介護生活が8年を超えたころ、周囲の助言もあり、ようやく母を施設に入れることにした。しかし、その申請をしているさなかに母は85歳で亡くなった。
葬儀費用の100万円を支払うと、貯金は底をついた。実家は借家。生命保険もかけていなかったため遺産もない。
「墓はあるのに数十万円の納骨代すら捻出できなかった。母の死後は家賃を滞納するようになって、そのうち家を追い出されました」