「ヒルズに留まって」森ビル、グリー慰留の手札 オフィスビルで相次ぐテナント引き留め合戦

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とはいえ、オフィス市場の先行きを悲観し、すでに賃料減額へと踏み込んだビルも出現している。オフィス仲介会社の三鬼商事によれば、東京ビジネス地区(千代田・中央・港・新宿・渋谷区)におけるオフィスビルの平均賃料は今年7月をピークに3カ月連続で下落が続く。大型ビルが募集賃料を引き下げ周辺の中規模ビルの賃料水準に近づいた結果、中規模ビルがそれを下回る賃料を提示する、という玉突き現象も生じているようだ。

森ビルはこのような借り手優位の状況下で、約7億円の違約金がありながら、グリーを翻意させた。だが、たとえ水面下で契約条件を譲歩したとしても、「森ビルも損をしていないのでは」(オフィスビル関係者)との見方がある。

森ビルは名を捨てて実を取った

グリーの新居となる六本木ヒルズゲートタワーには、現在JRA(日本中央競馬会)が入居している。JRAは来夏にも西新橋で建設中のビルに移転予定で、ゲートタワーのオフィスフロアは丸々空室となる。

折しも、近隣に構える三井不動産の「六本木ティーキューブ」では大口テナントの富士ゼロックスが移転、東京ミッドタウン内のオフィスビル「ミッドタウン・イースト」でもコナミホールディングスが今年度中に退去予定で、六本木エリアは一時的にオフィス需給が緩む。森ビルとしては、JRAと入れ替わる形でグリーを入居させることで、ヒルズ内の空室を抑えた格好だ。

賃料の面でも好影響が期待される。グリーが六本木ヒルズ森タワーに入居したのは2010年。当時のオフィス市況はリーマンショックの傷を引きずり、賃料も今よりずっと安かった。オーナー側に有利な「定期借家契約」を締結していた場合を除き、テナントに対する賃料増額は難しく、不況期の安い賃料を引きずったままのビルは多い。森ビルにとっては今回、グリーの退去によって新たに相場並みの賃料でテナント募集をかけられる機会が生まれたという側面もある。

慰留をしてでも大口テナントの退去による空室を回避したという、名を捨てて実を取ったとも言える森ビルの戦略。テナントの要望に沿いつつ最適な空室をあてがい、自社ビルの中でテナントを回遊させるという知恵の輪において、一つの解法を示したとも言える。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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