変わる世界、立ち遅れる日本 ビル・エモット著/烏賀陽正弘訳 ~ビビッドなテーマをバランスよく考察
ビル・エモットはいつも広い視野で問題の所在を明らかにするが、本書もまたそうである。
地球人口の増加問題や、エネルギーをはじめとした資源の枯渇論などで、人類に警鐘を鳴らす人は多い。しかし著者がいうように「テクノロジーや価格メカニズム、それに人間の叡智」によって、「人口は増大しても人々は裕福になっている」のが実際なのだ。直面しているテーマは「人口過剰ではなく、高齢化である」という指摘に納得する。
むろん直近の日本は「裕福」への道を歩いていない。会社も個人も負債をなくすことに熱心で、デフレから抜け出せないからである。リーマンショック以降の先進国は、こうした日本と同じ道をたどるのだろうか。それは心理学の問題のようだ。
あるいは石油の高値は温暖化の歯止めの役割を果たすし、エネルギー技術の発達を促す。化石燃料の時代の終わりが始まるが、そのことは、石油や天然ガスの収入に頼っているロシアや中東の不安定化につながる。
金融はどうだろう。システムは変わらなくとも、アメリカの投資銀行はメインバンク制に近寄り、日本の銀行は幅広い資金調達に乗り出している。つまりそれぞれのバランスが変わりつつある。台頭著しい中国はどうか。経済活動の成熟化と複雑化は、アジアのサクセスストーリーに見られるように「政府の果たす役割を減ずる」が、中国でもそれが起こりそうである。
では日本は。著者は製造業とサービス業のどちらも生産性を向上させよという。そのためには通信、電力、空港などの規制緩和が必要だと。
このようにビビッドなテーマを、わかりやすく説明する本書は、ビジネスマンにバランスよく物事を考えることの必要性をしっかりと伝えてくる。
Bill Emmott
ジャーナリスト。1956年ロンドン生まれ。オックスフォード大学で政治学、哲学、経済学の優等学位を取得。英『エコノミスト』誌ブリュッセル支局員、ロンドン経済担当記者を経て、83~86年、東京支局長として日本に滞在。その後、ビジネス部門編集長となり、93~2006年、同誌編集長を務める。
PHP新書 777円 212ページ
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