コトバの戦略的思考 ゲーム理論で読み解く「気になる日本語」 梶井厚志著 ~経済学のキーワードで現代日本語を読み解く

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 2章ではバイト語として定着しつつある「のほう」や「ら抜き」言葉を例にとり、戦略と効率性といったキーワードでの説明を加える。目からうろこであったのは、「よろしかったですか」という過去完了形を北海道の一部では、昔から丁寧語として使っていた(らしい)との指摘である。仮

にコンビニやファストフードのマニュアルがこうした地域の出身者によって書かれたとすれば、全国に普及した理由の一つとしてうなずける。

経済学者ならではの記載もなかなかに味わいがある。希少資源を無駄なく効率的に利用されているという状態、つまり「パレート最適」は本来、「パレート効率性」と訳すべきである(効率と最適は違う概念)とか、ゲームの理論の中国語訳、博奕(ばくえき)理論とは奕(囲碁)から来ており、ゲームとカタカナで記載するより奕と漢字で表すほうが理論の本質を突いている、などである。ギャンブルの控除率(掛け金が胴元の手に残る割合)の考察も面白い。

1冊で国語、経済、論理の3冊の本を読んだような密度と知的興奮がある。

かじい・あつし
京都大学経済研究所教授。専攻は経済理論、情報の経済学、一般均衡理論、ゲーム理論。1963年広島県生まれ。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学でPh.D.取得。ペンシルベニア大学助教授、筑波大学助教授、大阪大学社会経済研究所教授を経る。

ダイヤモンド社 1575円 294ページ

  

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