コトバの戦略的思考 ゲーム理論で読み解く「気になる日本語」 梶井厚志著 ~経済学のキーワードで現代日本語を読み解く
ゲームの理論などの研究に携わる経済学者が日本語を考察する。なぜ経済学者が「誤った日本語」を論じるのかと本を開くと、まず「よろしくお願いします」という慣例句が登場し、その理由が明らかになる。「あいまい戦略」、すなわち各自が事象をそれぞれに都合よく解釈する余地を残すという戦略的効果があると言うのだ。
続いて、「お疲れさま」「とんでもありません」など何気なく使っている挨拶に潜む責任回避の意識や、えっと驚くような効率性、公平性との関連性に敷衍してゆく。時代や地域によって意味が移り変わってゆくコトバを、現代(それもここ10年ほど)で使われている背景を統計データも駆使して、鋭くえぐってゆく。
推論のここそこで挿入される経済用語の解説が、通常の日本語論と異なる彩りを添えている。たとえば、「横並び」とモラルハザードを論じながら、一般人の考えるモラルハザードと経済学者のそれが相当に異なることを指摘し、続いて成果主義とセイフティネットに議論を展開する、といった具合だ。
「抽選の結果は平等であり得ない。にもかかわらず抽選が公平な手段として好まれるのは、機会が平等であるからだ」との不確実性と社会の公正についてのコメントなど奥が深い。
「格差」の項で本来、「差」と表現すれば済むところに「格」といった概念を加える主体の意図に言及し、「遺憾」では発言者の責任意識の有無を再び論じ、「OK」ではゴルフのOKボールを例に隠れた戦略的思考が開示される。