世界で通用するVCのルールは誰が作ったか? 『VCの教科書』が明かす極端な資本主義の秘密
本書のような教科書が日本語で読めるようになったことの意味を強調するために、昔の日本の話をさせていただきたい。私は今から17年前、2003年に当時務めていたベイン&カンパニーという米系コンサルティング会社から後のライブドアの投資・M&A部門となるキャピタリスタ(オンザエッヂ子会社)というVCに転職した。
今でこそ、街の本屋さんやアマゾンではVCやプライベートエクイティ投資に関する本があふれているが、当時はVCのお作法はごく一部の関係者が師から弟子へと伝えるものだった。もちろん日本にもJAFCO、日本アジア投資、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、エイパックス・グロービス・パートナーズといったVCは存在したが、2020年現在から比べれば、VC業界の規模は小さく、投資契約書も洗練されているとは言いがたいものであった。
もともと私がベイン&カンパニーからの転職先にVCを選んだのも、当時関わっていた日本企業によるシリコンバレーのVC調査というそのままのプロジェクトで、米国VCについて関心を持ったからであった。
実務的かつ洗練された情報がある本
90年代ビットバレーの熱気が過ぎ、米国ITバブル崩壊を過ぎた当時は日本語で読めるVC業界に関する書籍も投資の実務書も限られており、現在のように検索すれば洗練されたVC実務のブログが出てくるという世界ではなかった。
私の入ったキャピタリスタではなぜか集ってしまった極めて優秀な20代が、海外の文献や法律書を片手に皆でファンドの組成や投資契約書を勉強していた。その頃に『VCの教科書』があればよかったと切に思う。キャピタリスタ出身者はその後、メルカリやLINE、VCで大活躍をしている。
本書では、VCがどのようにアーリー・ステージ(起業後の初期段階)の投資先を決めるのか、リミテッド・パートナーって何だ?その種類は?といった誰もが思う疑問に答え、「タームシート(投資条件の概要)の賢明な読み方」という実務的内容までカバーする一方で『ハード・シングス』や『1兆ドルコーチ』といったシリコンバレーの名著に関する言及もあって楽しめる。VCについて網羅した本書は、VCやスタートアップに関わる方、関わりたい方にとっては必読書である。
VCが投資した小さな企業の中には、その後、一民間企業という枠を超えて、各国の政府、ひいては国際秩序にまで影響を与える巨大企業に育ったものもある。彼らがいる世界で、これからどんな新しいルールが作られるのだろうか。その中で日本は、あるいは私たちはどう生きるのだろうか。そんな危機感を抱いて私も最近『デジタルテクノロジーと国際政治の力学』を上梓した。
自分たちがしているゲームのルールを知らなければ、そこで成果を上げることはできない。かつてのVC投資は、まさに手探りの状況だった。今では、たとえアメリカを離れて諸外国でVC投資をするとしても、そのプロセスとお作法は変わらない。そのルールを作ったのが、サンドヒルロードを闊歩していたベンチャーキャピタリストたちなのだ。
今は北欧でVC業務を行う私は日々、そのことを噛み締めている。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら