世界で通用するVCのルールは誰が作ったか? 『VCの教科書』が明かす極端な資本主義の秘密

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ベンチャーキャピタル(VC)やスタートアップ企業の世界にいると、周りは投資家ばかりで、自分のアイデアを売り込み、一夜にして数十億円~数百億円という資産を築く人ばかりに会うことになり、それが普通に感じてしまうという病がある。これは世の中の大勢からすれば普通ではない。

アメリカの著名VCの中には、ナスダックの時価総額の3分の1は自分たちがつくったと言っているファーム(会社)さえある。ここまでくると、日々、改善を繰り返すことにより数銭のコストダウンを実現する細かな仕事をミリミリと行う会社とVCは、はたして同じ世界に属する「会社」かと不安になってくる。もしかしたらパラレルワールドが存在するのではないかと。

しかしながら、日々の改善にいそしむ会社も、「世界を変える(かも知れない)」スタートアップに株式投資を行い、その株式価値が増大したところで、株式を売却して利益を出すことを生業にしているVCも、同じ資本主義社会の住人であり、今はひたすらに自社の事業の深化を行う老舗企業にもスタートアップ時代があったことだろう。

「次のグーグル」を育てうる人気の職業

とくに日本で一般的には、なんだか怪しくも見えるVCの世界について「バイブル」や「教科書」と言える本が、ついに日本語訳となって出版された。それがスコット・クポール氏による『VCの教科書』である(もっともクポール氏自身は、この本は「バイブル」を目指してはいないと述べている)。

日本では関わる人間も少なく謎に包まれたVCではあるが、アメリカではウォールストリートの著名投資銀行勤務よりもある意味で、「格」が高い人気職業である。確かに、億万長者になれる可能性があり、もしかしたら次のグーグルやフェイスブックを生み出して、「あの会社は私が育てた」と言える立場にもなりうるVCという職業に人気があっても不思議ではない。

そんなベンチャーキャピタリストを目指す野心家たちやMBAの学生の間で「教科書」となっている本書を読めば、米国ベンチャーキャピタルの概要と仕組みは一通り理解できるようになっている。

本書の原題はその名も「サンドヒルロードの秘密(Secrets of Sand Hill Road)」である。タイトルだけを見れば、秘密基地か、ひと夏の秘密の思い出について書かかれているのかと思うが、ここで描かれる秘密は、極端な資本主義の秘密である。

本書については、グーグルのCEOだったエリック・シュミットも「VCの導き方を描いた決定版」という推薦を寄せている。著者の経歴を見れば、近年のシリコンバレーでも飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進したVCであるアンドリーセン・ホロウィッツでマネージング・パートナー(VCにおける経営者の一人)を務める人物であり、教科書の筆者として申し分ないだろう。

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