「天声人語の書き写し」が読解力向上に不要な訳 これほど要約しづらい文章も珍しい

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この文章のキーワードはもちろん、「写真」「不幸」。この文章は、不幸だからといって目をそらして写真を撮らないことに反対している。撮らない人の気持ちもわかるが、撮るべきだと語っているわけだ。そして、そのうえで、不幸な人を撮る写真がいかに社会に大きな事柄を訴えるかを主張している。

この文章では、第二部に混乱があったために読み取りにくくなっていた。そのほか、天声人語の特徴として、第一部が長いという点がある。本題に入る前の「枕」にあたる導入があまりに長く、ときには文章のほとんどを占めたり、導入部分が本題と無関係だったりといったことも多い。

詳細に検証してみる

もう少し深く検証してみると、この文章をいっそう深く読み取ることができる。

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    ●それは何か(定義)

これは問題ないだろう。「不幸」は考え方によっては哲学的にもとらえられるが、この文章では病気や死や暴力などを示しているといえるだろう。「写真」については定義するまでもない。

  • ●何が起こっているか(現象)

カメラマンが「不幸」を撮ることとは、実際に現代社会ではどのような場面かを考えてみる。そうすると、戦場カメラマンが戦場、テロの現場、新型コロナウイルス患者などを撮影して、その不幸を描いていることを思い出すだろう。

ところで、人の不幸を撮影するということでいえば、犯罪被害者を追いかけ回すカメラマンが被害者の傷を深めていることを思い出すかもしれない。この文章に、カメラマンのそのような負の面がとらえられていないことにも気づくだろう。

このようにカメラマンは善良な人のプライバシーを侵害し、いっそう不幸にすることがある。それをこの文章は無視しているといえるだろう。

  • ●いつからそうなのか、それ以前はどうだったか(歴史的状況)

かつてケヴィン・カーターというカメラマンが、飢えて倒れているアフリカの少女と、それを狙うハゲワシの姿を写真に撮ってピューリッツァー賞をとったことを思い出す人もいるかもしれない。「写真を撮らずに、すぐに助けに行くべきだ」という議論も巻き起こった。

そうした反対意見を無視しているともいえるだろう。そう考えると、この文章がカメラマンを手放しで肯定していることに気づくに違いない。

  • ●どこでそうなったか、ほかの場所ではどうなのか(地理的状況)

現在でも不幸な人々の報道がなされているアフリカや南米、中東などの戦場、病気の感染地帯、テロの頻発地域、あるいは、カメラマンの立ち入りが禁止される北朝鮮のような国を思い出してみるといいだろう。

こうしたことを考えることによって、この文章がどのような偏りを持ち、どのような反論が可能か理解できるはずだ。

樋口 裕一 多摩大学名誉教授

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ひぐち ゆういち / Yuichi Higuchi

1951年大分県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、立教大学大学院博士課程満期退学。フランス文学、アフリカ文学の翻訳家として活動するかたわら、受験小論文指導の第一人者として活躍。現在、多摩大学名誉教授。通信添削による作文・小論文の専門塾「白藍塾」塾長。250万部の大ベストセラーとなった『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP研究所)のほか、『頭がよくなるクラシック』『頭がいい人の聞く技術』『65歳何もしない勇気』(幻冬舎)など、著書多数。

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