サイゼリヤで「星付き料理人」がバイトする理由 社会人がMBA代わりにバイトするときの鉄則

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人は、「これでいい」と思ったところから衰退は始まります。現状維持なんてもってのほか。だから学びのチャンスを最大限に生かさなくてはなりません。

それに、社会人になってそれなりに経験を積むと、怒ってくれる人はいなくなります。誰かに怒られる経験は初心に返れて、「自分は新入社員にもっと丁寧に教えよう」と気づくこともあるので貴重な体験になります。

バイトって、実はリーダーとしての修業に最適なんですよ。「先輩」と呼ばれるようになったら、それだけで自分は立場が上のように思えますし、「課長」なんて肩書で呼ばれたら、自分は人間的にも特別なんだという勘違いが生まれそうです。「先生」などと呼ばれたら、自分を見失わないほうが難しい。そうならないようにしていても、気が付かない間に慢心や過信は、心に巣くっています。

実はこれ、思考停止なんです。おごり高ぶらず、思考停止しないためにも、何でもいいから自分が一番下っ端になれる場をつくっておくのは大事です。

例えばゼネコンの社員は、孫請けの作業員に仕事を発注しますよね。もしその孫請け会社でバイトをしたら、そこで働く人の気持ちがわかるし、実際に現場がどう動いているのか体感として理解できるので、きっとよいリーダーになれると思います。

ベテランのリーダーこそアルバイトをしよう

アメリカのドミノピザは、社長が売り上げの落ちている店や風紀が乱れている店のバイトの面接を受けに行くそうです。末端のスタッフは社長の顔を知らないので、「週に何日入れる?」みたいな会話をするんでしょう。不良社員だったら、「おじさんには大変な仕事だよ?」なんて偉そうな態度を取りそうな気がします。

『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか?』(飛鳥新社)。書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

そして、実際に働いてみる。すると、不良社員が隠れてピザを食べていたり、床に落としたものを捨てずに使っている光景を目の当たりにするのです。社長はそれをずっとメモっておきます。

ただ、水戸黄門のようにその場で「実は私は社長だ!」と正体を明かさないし、後でお白洲に引っ張り出して桜吹雪の入れ墨も見せません。後日、本社にその店の店長や社員を呼んで、再教育するのだそうです。

つまり、末端の人の気持ちに寄り添って再教育するということです。末端の気持ちを知るために自ら末端を体験しているのです。そこまでしないと、自分とは違う立場の人の気持ちはなかなかわかりません。

バイトはそれを体験できる貴重な場です。社会人として自分はベテランだと思っている人ほど、バイトをしておごりや固定観念を捨ててみてはいかがでしょうか。きっと新たな成長のステージに踏み出せます。

村山 太一 「レストラン・ラッセ」オーナーシェフ

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むらやま たいち / Murayama Taichi

イタリアの三ツ星レストラン「ダル・ペスカトーレ」で修行を積み、ファミリーを除くトップのス―シェフに就任。その後帰国し、東京都目黒区に「レストラン・ラッセ」をオープン、9年連続で一ツ星を獲得。しかしレストラン経営に限界を感じ、2017年よりサイゼリヤ五反田西口店にてアルバイトを開始。その様子を伝えるnote『目黒の星付きイタリアンのオーナーシェフは、サイゼリヤでバイトしながら2億年先の地球を思う。』が26万PVを記録し話題になる。

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