「大統領選は超接戦」を当てた世論調査の正体 「隠れトランプ」の本音を引き出す独自の手法

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だが、それが何なのかについては何も語ろうとしない。調査手法について、ほとんど何も説明しないのがカヘリー氏のやり方なのだ。トラファルガーのウェブサイトを見ても、方法論のページには自社のサービスに関する漠とした宣伝と、同社の世論調査が「社会的な好ましさのバイアス」に積極的に対処しているといった説明があるだけで、詳細は示されていない。カヘリー氏は、有権者の全体像を正確に捉えるためにショートメッセージや電子メール、電話を組み合わせているという。

長年の実績に裏付けられ、広く有効性が認められた方法を採用する従来の世論調査機関は、カヘリー氏のアプローチに懐疑的だ。仮に「隠れトランプ支持者」なる人々が存在したとしても、トランプ政権になってからの4年間で騒々しい集会が定着し、そのような人々は事実上絶滅した、と保守系のアメリカン・エンタープライズ研究所で世論調査を研究するダニエル・コックス氏は指摘する。

「人々はトランプ支持者であることを恥じているようにはみえない」とコックス氏。いわゆる「隠れトランプ」を定量化しようとする研究が過去4年間にわたって続けられてきたが、その存在を裏付けるデータはまったくといっていいほど見つかっていない。

新たなアプローチで業界に乗り込んだ

とはいえ、カヘリー氏のサクセスストーリーは文句なしに面白い。というのも、向こう見ずで型破りな南部の世論調査専門家が、2016年に新たなアプローチをひっさげてこの業界に乗り込み、大手の有力世論調査機関をことごとく打ち負かしたのだから。ジョージア州で生まれ、サウスカロライナ州の北部で銀行員と教師の家庭に育ったカヘリー氏は、幼少のころから政治にたいへんな興味を抱くようになっていた。

サウスカロライナ大学では政治学を専攻。ほどなくしてレーガン、ブッシュ(父)両大統領の選挙戦略を指揮した共和党の戦略家リー・アトウォーター氏の補佐役として世論調査を担当していたロッド・シーリー氏に師事。その後、独立して自身の世論調査会社を立ち上げた。

カヘリー氏は2018年の中間選挙でも、ロン・デサンティス氏とリック・スコット氏が勝利したフロリダ州の知事選と上院選などで正確な世論調査結果を発表、成功体験を一段と積み上げている。

今年の大統領選挙でも、有権者の間には依然として力強くトランプ氏を支持する動きがあるのを読み取り、ほかの世論調査機関はまたしても「隠れトランプ」の重要性を過小評価していると考えていた。カヘリー氏の理論には、こういったものもある。

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