確かに、輸入トウモコロシよりも安い値段で売れればいいのですが、コンゴでの製造コストが高いため、輸入品との価格競争についていけず、損を出してしまうこともあります。
今回インタビューした起業家の農場も、農場運営に慣れるまでは、輸入品の価格に太刀打ちできず、儲かっていませんでした。しかし、この農場は、コンゴ南部で有数の大企業がバックについているので、そこから湯水のように追加資金が投入されて、これまでの損失補填ができました。やっとある程度の規模の経済が出てきて、コストも下がり、最近は利益が出るようになってきたとのこと。
しかし、こういった大企業がついていない独立系の農場は、膨大な初期投資と運営費用負担に耐え切れず、ことごとく消えていったそうです。こういう状況なので、ましてや、普通の家族経営の小規模農家が生産性向上のための投資をするなどは、簡単ではないのです。
儲かる輸入商社の参入が、正の循環を生むか
この厳しい話を聞いて、僕は起業家に尋ねました。「コンゴは内陸で、ビジネス環境も厳しいですよね。そもそも儲かっている企業なんてあるのですか?」。
そうしたら、起業家は、「もちろん、ありますよ。この商売人と会ってみてください」と、ある輸入商社を紹介してくれました。
この輸入商社を訪ねると、街のど真ん中にある巨大な倉庫に、トウモコロシ粉、食用油、粉ミルク、洗剤、お酒、などの売れ筋商品が山のように積まれています。ギリシャ系コンゴ人のオーナーが出てきて、ビジネスの様子を話してくれました。
「コンゴでは、地元で食料を作るコストがあまりに高いので、生産コストが相対的に安い近隣国の南アフリカやザンビアなどから食品を仕入れても、そこからコンゴまで運ぶ高い輸送コストをチャラにできるくらい魅力的な値段で売ることができるんだよ」
この会社は、輸入で蓄えた儲け(資本)を投資して、農業や食品加工業にも打って出ているそうです。確かに、彼らのように資金力のある会社であれば、前述した高い初期投資にも耐えられるでしょうし、すでに輸入食品を売りさばく販売網は持っているので、農業や食品加工のオペレーションをうまくやれば、販売の心配はしなくていい、というメリットもあるでしょう。
アフリカの農地開発は、簡単な話ではありません。ただ、こういった資本力のある商社たちが、これまでのようにただ食料を輸入するだけではなく、農業に目を向け始めている、というのは、アフリカでこれまであまり見られなかった効率的な大規模農場を増やしていくうえで、明るい材料だといえます。
また、こういった大規模農場が、資本力を生かしてよりよい農業技術を導入し、周辺の小規模農家がその技術から学んでいく、といった正のサイクルが回っていけば、アフリカの食糧生産事情は少しずつだとしても、よくなっていくのではないかと思います。
注記:本稿は、執筆者個人の意見であり、世界銀行グループの公式見解を示すものではありません。本稿では、大規模農場の開発についてのみ触れていますが、農業活性化のために、さまざまな関係者が、小規模農家支援に力を注いでいることも申し添えたいと思います。
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